ところが、ある日、市民活動団体のリーダーが40人ほど集まった会議で、山田は30分以上立たされたまま、ある参加者からこっぴどく怒られ続けた。
理由は、マルシェで販売する商品の値付けが統制されておらず、会議参加者とは別の団体が、同じ商品を安く売ってたことに納得がいかなかったからだという。もちろん、販売価格を市役所が統制することはおかしい。山田に過失があるとは言えないだろう。しかし、山田はこの経験の本質に向き合い、思いを巡らせることで、一つの結論に辿りつく。
「自分が市民活動団体を立ち上げた経験どころか、市民活動すらしたことがなかったことが、怒られた原因だと結論づけました。その会議の出席者の中で、唯一、税金で給料をもらいながらやっていたのは、私だけだったんです。自分は給料をもらい、相手はボランティアで、こちらが『協働をしましょう』って言っても、それはダメだろうと」
「地域って行政の事業だけじゃダメなんだ」そう強く感じ、自身も業務の時間外で、困っている人の力になるための取り組みを始めた。その中から、前述のシャッター商店街の利活用を進める「nanoda」など、様々な企画が生まれた。そして、それを継続する中で、気持ちにも変化が生まれた。
「いざ、自分で市民活動をすると、時間外で、自分のお金使っているからこそ感じる課題があって、それを仕事の中でどう施策として活かしていくかという視点に変わりました」
山田は、これからの公務員に求められているのは、「挑戦する人と一緒に『伴走できる職員』」だと考えている。
「私は民間、行政、町の垣根を越えるトライセクターリーダーが地域には必要で、その1人になりたいと思っているんです。『軸足は行政だけど、民間との仕事もする。そういう私たちと一緒に何かやりましょう!』という職員をどんどん増やしていきたいです」
山田の実績を考えると、民間企業からも声がかかるのは必然だ。しかし、転職は考えていないという。その理由を、山田らしい屈託のない笑顔でこう締めくくった。
「一流の民間人と関わっていると、そっちの土俵で一緒に争いたくないと思いますよね(笑)。私は公務員だから、自身の力を発揮できるのです」
連載:公務員イノベーター列伝
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