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2019.08.29

べゾスを陰で支えた天才たち|アマゾン ジャパンができるまで 第7回


また、IT黎明期のベンチャーであることを忘れさせるほど、アマゾンのシステムのレベルは高かった。そして、各チームが「パーツ」となって個々のスケジュールに沿ってプロジェクトを進める。信じられないほど隅々が効率的に動いていた。

野口は言う。

「サイトも含めた社内で起こるすべてのトラブルを、その分野を担当している社員が解決者となり、チケットをアサインしたりされたりして解決する『Trouble Ticket』や、サイトから売り上げまであらゆるデータを格納したデータベースに、個々の責任範囲で自由にアクセスできる『Decision Support System』、インターナショナルの社内電話帳『Phone Tool』など、のちのアマゾン人生で長く使うことになる根幹のシステム・ツール類がその時点でほぼ揃っていたことは特筆に値すると思います。それは組織やコミュ二ケーションやレスポンシビリティの『かくあるべき』がすでに出来上がっていたからだと思います」



「ぼくが長くいて、一番感動したことの一つは、問題が起こったときの対処法ですね。問題が起きたことにフォーカスするより、むしろ、『また起こることを何がなんでも回避しようという』文化があったことです。だから、起きたことに対して『中途半端な火消し』のようなことをするとひどくツッコまれた」

何よりも、特徴的だったのは組織の階層はしっかりあっても、コミュニケーションのヒエラルキーがないこと。何か問題が起きた際、発見者が「連絡する先」が明確で、しかも問題の重大さに応じて何階層をも「エスカレート(上司やその上の上司に直接連絡すること)」できる、そのネットワークの仕組みはすばらしかったという。

「定番」を完全停止してまでベゾスが命じたこと

ジャパンのローンチ後はオンラインマーケティングのマネージャも経験した野口だが、こんなことがあったという。

「アマゾンのマーケティングメールの多くはシステムによって送られます。コミュニケーションの頻度など様々なファクターを考慮して、誰に何を配信するかを決定して、信じられないほど効率よく配信されるんですよ。でも、ある国で、アマゾンの代名詞とも言える新刊書籍のリコメンドメールに関して、ミスが起きました」

ソフトウェアが、ある著名小説家と同姓同名の別人の、政治的、民俗学的にややセンシティブな新刊のリコメンドを、顧客に送ってしまったのだ。



ベゾスはこれに激怒して、数カ月以上に渡ってこのメールプログラム自体のストップを命じたという。このメールはアマゾンにとって古くからある確実なメールプログラムの一つだったので、その停止は本やCDなどメディア商材のチームに打撃を与える。しかし、何よりもカスタマー優先で、こういう『誤配』を防ぐためのシステムだけでなく、メールによるカスタマーエクスペリエンスそのものの根本改善を至上命題にしたのだ。

「Eメールマーケティングはなくなったとしても、カスタマーエクスペリエンスはなくならない」と言い放ったベゾスの本気度に、関連の各部署では一気に緊張感が高まりました。つまり、小手先の『火消し』ではなく、あくまでもルートコーズをフィックスすること。『カスタマーオブセッション』(脅迫観念)とまで言われたベゾスのカスタマーエクスペリエンスへのこだわりは、決して口先だけじゃなかったのだと思いました」
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文=石井節子/福光恵 構成=石井節子 写真=帆足宗洋

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