アマゾン本社では「トレジャラー」の肩書きを持つ国際買収担当のランディー・ティンズレーが、「dragstore.com」「Gear.com」「Pets.com」「Alexa.com」など「.com 」がつく企業を買いまくっていた。まさに彼はこの「生態系」をぐるぐる回す潤滑油のような役割をしていたといっていい。
西野もまた、「アマゾンが将来買収する」ことも前提に、日本で立ち上がっていたいくつかのベンチャー企業にM&A戦略などを指南してもいく。
「自分では記憶がおぼろげなんだけど、今でもオザーンにからかわれるんですよね。『お前の会社も最後はアマゾンで買収してやるから、早く立ち上げろ』って僕に言われて、ビジネス成長させたって……」
「オザーン」とは、2019年、ヤフージャパンの副社長に就任した小澤隆生のことである。そして「最後はアマゾンで買収してやるから」と西野が言ったというのは、書籍、CD、DVDなどのマーケットプレイス「Easy Seek」。小澤がネットエイジのインキュベーティーとして立ち上げ、後に楽天に成功裏に買収された事業である。
実際に、当時ネットエイジに関わっていた青年たちが今、日本を動かし始めている。メルカリの山田進太郎やワーク・ライフバランスの小室淑恵、アイスタイルの吉松徹郎と菅原敬、Fringe81の田中 弦、スマートニュースの川崎裕一、ミクシィの笠原健治、グリーの田中良和、山岸広太郎(現慶應イノベーション・イニシアティブ)、CARTA HOLDINGSの宇佐美進典、データセクションの橋本大也(現デジタルハリウッド大学教授)など。
上場企業社長などとなった実業家たちのほか、東大教授で東大発ベンチャーのAgICを興した川原准なども、一部だが例である。西野自身もまた、雑誌のオンライン書店を運営する富士山マガジンサービスを創業し、上場させている。
「ただその後、ITバブルが弾け、米国で行われていた買収アクティビティーも基本ストップ。トレジャラーだったランディー・ティンズレーもアマゾンを去ります。僕も、アマゾン ジャパンが立ち上がり、その事業の成功に向けて、よりシフトしていくことになりました」
「ビットバレー」精神の熱を身内に秘め、ネットベンチャーを巡るエコシステムの風景を脳裏に描きつつ、直に聞くベゾスの言葉からアマゾン・スピリットを継承した西野。岡村勝弘(第1回、第2回)という戦友は失ったものの、オークションビジネス立ち上げのための「STG(ストラテジック・グロース=戦略的成長)」を見据えた採用が始まり、カントリーマネジャーの長谷川純一の参画も決まった。
こうして仲間たちが集結し始めた2000年。「ジャパン・プロジェクト」の動きは、いよいよ本格化することになるのである。
=敬称略、「第4回(8月8日公開予定)」につづく
(前編・第9回まで随時公開)
西野伸一郎◎株式会社富士山マガジンサービス代表取締役社長。明治大学卒業後、NTT法人営業部門にてシステムコンサルタントとして活躍。企業派遣によりニューヨーク大学でMBAを取得し、1998年、株式会社ネットエイジの設立に取締役として参加。米国アマゾン・コム、インターナショナル・ディレクター、アマゾン ジャパンにはジェネラルマネージャーとして立ち上げから参加。2002年7月に日本初の雑誌定期購読エージェンシー「富士山マガジンサービス」設立。雑誌のオンライン書店/~\Fujisan.co.jpスタート。2015年7月東証マザーズ上場。