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2019.07.28

白紙撤回された内定書 |アマゾン ジャパンができるまで 第2回

独占連載:アマゾン ジャパンができるまで


この頃、COOにジョー・ギャライがアサインされ、2人のレポートラインはギャライに変わる。そしてギャライから「オークション立ち上げの可能性」の話があり、結果として、西野はオークション側のディレクターを兼務することになったのだ。

日本にいる「ネットエイジ」のリソースも使い、書籍のカタログの調査などもしながらではあるが、西野はジェフ・ブラックバーンが率いるオークションチームに加わった。米国側でのオークションサイトの運営を体験をしつつ、日本でのオークション立ち上げの準備を始めたのだ。

なぜ「オークション」だったのか? 一言で言えば、その頃アメリカで、新興勢力としてオークションの「イーベイ」が存在力を誇示し始めていたからである。

アマゾン・ドット・コムは「オークションもコマースの1つ」と謳い、トップページ上のタブの右側に「アマゾンオークション」「Zショップ」を華々しく加えていた。「買いたい人」にとって、中古市場がないECサイトは不完全だし、「Everything Store(なんでも買えるストア)」を目指していたベゾスには、商品の品揃えがイーベイに劣るなどということは考えられなかったのである。

ところが、さしものアマゾンもイーベイにはなかなか勝てない。その要因の一つとして「出遅れ」があった。

BtoCならお手の物。倉庫に物を集めることなら得意なアマゾンだが、CtoCのオークションサイトでは素人。ローンチした瞬間は在庫ゼロ、しかし売り手が集まらないから買い手もつかないという構造が、ハードルになったのである。オークションは、先にやったものに勝機が微笑む(ファーストムーバーズ・アドバンテージ)業態だ、という学びと苦い反省がシアトル本社には浸透していた。



「ゲット・ビッグ・ファスト」

アメリカは出遅れて辛い思いをしている、この学びを日本に生かし、ブックスのストアよりもオークションを先にローンチした方がよくないか? という流れになったのである。新たに「オークションサイト立ち上げ」という任を帯びた西野は、ギャライの元、さっそく動きを開始。オークション事業の基盤を作るための外部組織の調査や、買収準備にも関わり始める。

ちなみに西野は、当時の本社買収担当者との間で、買収額についての以下のような会話を交わしたことを記憶している。

担当者:シン、この買収金額の正当性をどう計算する?

西野:そりゃ、やっぱり、現状のサービスの規模とか伸び率とかを計算して……

担当者:違う、それはアマゾン的じゃないだろう。アマゾンの現在の時価総額に対して、今検討している買収額は何%に当たる?

西野:それはまあ、1万分のx、とか……。

担当者:だよね、取るに足らないよね! じゃあ、そのビジネスを今アマゾンで展開したら、今後のアマゾンビジネス全体に対して、どれくらいの価値になる?

西野:それは、うーん、その比率よりは圧倒的に大きくなるのは間違いない!

担当者:だろう! 今後のアマゾンビジネス全体に対する価値割合が、時価総額に対する買収額の割合より大きければ、買い、なんだ!

──まさに、あの手この手で市場占有率を上げる戦略「ゲット・ビッグ・ファスト」の象徴のような会話ではないか。

実はこの頃アマゾンでは、いわゆる「人事」の部門を一般的な「HR(Human Resource=人的資材)」ではなく、「STG(Strategic Growth=戦略的成長)」と呼んでいた。これもまた、「ゲット・ビッグ・ファスト」の精神の表れである。人材採用を、組織を戦略的に拡大するための中核的機能として位置付けていたのだ。

採用と言えば、後の「ブックスビジネス立ち上げ」の原動力となっていく主要メンバーたちが加わったのもこの頃だ。採用時はオークションビジネス立ち上げのための「STG」だった彼らは、面接されているのが「アマゾン ジャパン」であることを、入社が決まるまで知らされなかった。

https://forbesjapan.com/articles/detail/28589
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構成・文=石井節子

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