日本人の平均寿命は、2001年から2016年の間に男性で2.91年、女性で2.21年延びた一方、健康寿命の延びは男性で2.74年、女性で2.11年にとどまっている。つまり不健康な期間が、男性で0.17年、女性で0.1年長くなったのだ。健康寿命の伸びは平均寿命の伸びよりも短く、長寿化は要介護リスクの高まりにつながることを認識する必要があるだろう。
高年齢者雇用安定法が改正され、企業は2025年度までに65歳までの雇用を義務付けられた。それは厚生年金の支給開始年齢が2013年4月から3年毎に1歳ずつ引き上げられることになったからだ。支給年齢は将来的にはさらに引き上げられる可能性もあり、今後延長される「定年」の後に元気に過ごせる期間は短くなるかもしれない。つまり、「定年後に元気に過ごせる期間」である(「健康寿命」-「定年時期」)は徐々に短くなる恐れがあるのだ。
これらを考え合わせると、高齢期の人生を本当に楽しめる期間は限られている。延長された「定年」まで一所懸命働いた結果、やっと退職したのも束の間に健康寿命に至るかもしれない。定年後にやりたいと思って先延ばしにしてきたことを何もできずに寿命を迎えなくてはならないという後悔だけはしたくないものだ。
幸せの「老い支度」
前回書いたように、定年後には「きょうよう」と「きょういく」(今日の用事と今日行くところ)、名刺を介さない人間関係をつくることが重要だ。
そして、社会的に孤立せずに地域や家庭での居場所をつくるためには、趣味や地域活動を通じた仕事以外の人間関係を築くためのコミュニケーション能力が必要となる。互いに性格や趣味を理解した上で選択した人間関係は、利害関係がなく、人間性を尊重した居心地の良いものになるだろう。
定年前のワークライフバランスの実現に向けて、「定年」の前に大きく働き方を変えてみてはどうだろうか。仕事に偏った軸足を意識的に趣味や地域などにも拡げよう。「健康寿命」は有限であることを肝に銘じ、自らの最適な「定年」を選択し、これまでの“夢”を実行に移すのだ。洋服ダンスを整理し、定年後のスーツはお気に入りの1着だけを残し、替わりに「きょうよう」と「きょういく」のためのおしゃれなジャケットを1枚買ってみよう。
また、要介護になっても残存能力を最大限活かした仮想「健康寿命」を伸ばそう。「無病息災」も結構だが、むしろ「一病息災」のように多少身体的不具合を抱えても主観的健康でありたい。認知症や終末期医療の対応も自ら決定できるようにしておこう。自らの「定年」と「健康寿命」の関係の最適化を考えた幸せの「老い支度」が求められる。
連載:人生100年時代のライフマネジメント
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