慶應の女子大生が「アイヌ語」のユーチューブを始めた理由

関根摩耶さん


──これまで、なんらかのきっかけでアイヌ語に興味を持ったとしても、どうしたらいいのか困った人も多かったと思います。まだまだアイヌ語を学ぶ教材は多くありませんし、ネットや書籍を探しても、専門的で難しそうな印象を受けるものが多い。そういう意味で、このユーチューブは簡潔でわかりやすいですね。

でも、まだまだ悩みながら制作しています。これまでのアイヌ文化に関する教材は、少し難しくてハードルが高かったと思います。そのため、制作する際には、どうすればアイヌ文化に触れやすく、身近に感じやすくなるかを第一に考えています。

あまりにまじめな内容にしてしまうと、ハードルが高くなる。一方で、目立つことや拡散されることばかりを考えてしまうのも違うなと思います。特に、アイヌ文化をある程度理解されている方やアイヌ文化に誇りを持っているアイヌの方々の気持ちを考えた時に、安易な動画にはしたくないという想いもあります。

そして、アイヌの方々自身にも、気軽にアイヌ語、アイヌ文化を学ぶ機会として活用していただけたらとても嬉しい。そう考えた時にどんなユーチューブにしていくか、試行錯誤の日々です。


悩みながらも少しづつ前に進む姿は力強い。摩耶さんのようにアイヌ語学習に積極的に取り組む人々は増加傾向にあり、慶応義塾志木高校や平取町立二風谷小学校などアイヌ語の授業を行う学校も現れてきた。アイヌ語を日本語と並んで日本の公用語にすることを目指す動きも起きている。

アイヌ語の継承や発展に向けた取り組みは各地で様々な人の手で行われてきた。アイヌ初の国会議員で、旧土人保護法の廃止とアイヌ文化振興法の制定に尽力した萱野茂さんもその一人。萱野さんは1987年から北海道沙流郡平取町二風谷でアイヌ語教室を開いた。そして当時教室に通っていた子供たちが現在、アイヌ文化の振興において重要な役割を担っている。

近年では、北海道や東京を始め各地で対象年齢を制限しないアイヌ語教室が多く開催されている。漫画『ゴールデンカムイ』が流行した影響も伺える。アイヌ自身が先祖の言葉を学ぶ目的以外に、アイヌではない人たちの間でも、彼らの文化を学ぶきっかけとしてアイヌ語学習が広まっている。

言語の多様性はその国の文化の豊かさを象徴するものだと思う。豊かな文化は、創造の源だ。アイヌ語の復興は、決してアイヌの方々だけの問題ではなく、日本に暮らすすべての人々の問題なのである。

少数言語の復興には、マジョリティの役割が欠かせない。まずは「イランカラプテ」という挨拶言葉から覚えてみよう。アイヌ語の世界が、そっとあなたの心に触れてくるだろう。


※1 1871年の開拓使通達でアイヌの習俗の禁止や日本語学習の奨励を指示。これ以降、法令等により「日本語学習を奨励する」という形をとり、事実上アイヌ語の使用が困難な状況となる。(参考)小川正人『近代アイヌ教育制度史』 ※2 1901年の旧土人児童教育規程等によって教育内容の詳細が規定され、旧土人学校で日本化教育を受ける体制が整備。(参考)小川正人『近代アイヌ教育制度史』

文=谷村一成

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