この夏、ウラジオストクを訪れる日本人が急増しているという。現地在住の日本の知人によれば、「これほど多くの日本人観光客の姿を見るのは初めて。20~40代の女性を中心に、個人や少人数のグループ客が多い」という。ツアー客は少なく、韓国や台湾のような「安近短」で楽しむ個人客ベースの旅行先になっているようだ。
確かに、日本とウラジオストクを結ぶ航空定期便も増えている。昨年は成田とウラジオストクを結ぶ便は週6便だったが、今年に入り1日2便に。運航しているのはS7とオーロラ航空というアエロフロート航空の小会社というロシア系のエアラインのみだが、増便のおかげで、これまで現地に夜着の便しかなかったが、午後早めに到着する便もできたので、現地でゆっくり滞在できるようになった。関西空港や新千歳空港からの直行便もある。あとは日系エアラインの就航を待つばかりだ。
「ロシア=治安の悪い」は過去のイメージに
盛況の理由として考えられるのは、本コラムでも何度か言及したように、2017年8月からウラジオストクのある沿海地方で電子簡易ビザが発給されるようになったため、これまでロシア訪問時に煩わされたビザの手配から解放されたことだ。
成田からはソウルへ飛ぶよりもフライト時間が短いという距離の近さもある。そして、かつての暗くて、治安の悪いロシアのイメージが過去のものとなり、ヨーロッパの港町の風情を楽しめる素敵な町であることが広く知られるようになったことがある。
最古の建築物「グム百貨店」の裏路地は倉庫を改装したレストラン街になっている
そのうえ、食事もおいしく、ロシア料理だけでなく、日本では珍しいジョージア料理からシーフードグルメまで味わえる。さらには、バレエに代表されるロシアの都市文化を体験できることが、近隣アジアの国々と比べて差別化された魅力となっている。
こうした背景には、2018年のFIFAワールドカップ・ロシア大会の期間中、多くの外国人観戦客の呼び込みに成功したことで、ロシアがこれまでの閉鎖的な受け入れ姿勢を改め、インバウンド誘致に積極的になっていることが大きいだろう。先日も2021年までに、さらに拡大されてロシア全土で電子簡易ビザを発給すると発表されたばかりである。
現地を訪れた日本人が気づき始めているのは、日頃、日本で接するロシアに対する報道とは違い、この町の人たちがきわめて親日的であることだろう。これはウラジオストクに限らず、近隣アジアの国々でも実は同じなのだが、こういったナマの感触は実際に訪ねた人でなければ感じ取れないことかもしれない。
こうしたウラジオストク熱を受け、筆者は本コラムでこれまで書いてきた内容などをもとに、「ウラジオストクを旅する43の理由」(朝日新聞出版)という本を上梓した。街歩きやグルメ、文化、歴史などのテーマに分けて、この町の魅力を紹介している。現代アートやストリートアートなどのカルチャーシーンも紹介している。ご一読いただけるとさいわいである。
なお、現地関係者から緊急の注意事項が届いているので、記しておきたい。ロシアの電子ビザは自らネットで申請するものなので、姓名のローマ字表記やパスポートナンバーを間違えて入力したことに気づかず申請してしまうと自動的に処理されてしまう。それが理由で出発空港でのチェックイン時に出国を止められてしまうケースが起きているようだ。こればかりは自己責任なので、気をつけてほしい。
連載:ボーダーツーリストが見た「北東アジアのリアル」
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