2019年の世界長者番付では、ジェフ・ベゾスが2年連続でトップに立った。ビル・ゲイツと首位争いを繰り広げる構図は昨年と変わらないが、世界のビリオネア全体を眺めると新しい流れが生まれている。
スイスのチューリヒに本拠を置くプライベートバンク・UBSはビリオネアの資産形成について継続的に調査を行っている。その結果をまとめたのが「ビリオネア・レポート」だ。18年版のビリオネア・レポートでは、ここ数年で起きたビリオネアの変化を概観することができる。
いろいろな変化の切り口の中で、興味深いのは新旧ビリオネアの違いである。
17年は、初めてビリオネアになった起業家が199人もいた。いまだに消費財・小売業や工業、素材といった旧来産業も強いが、若い世代は人工知能(AI)やヘルスケアなどの先端分野で技術開発を進めている。例えば、ブロックチェーンテクノロジー企業リップルの共同創業者兼会長であるクリス・ラーセン、深センに本拠を置く遺伝子シーケンシング会社BGIを共同創業した汪建などが、ビリオネアの仲間入りをしている。
ビリオネア一族の資産継承にも新しい流れが見られる。従来のファミリービジネス(同族経営企業)から、各々が新しい領域でビジネスを興す「ビジネスファミリー(事業家一族)」が現れてきたのだ。
父親は旧来産業で財を成したが、子はテクノロジー分野で起業する。そうしたビリオネアファミリーもめずらしくなくなっていくだろう。インド最大のコングロマリットであるリライアンス・インダストリーズでは、親世代は繊維業や石油化学分野に注力していたが、子世代は金融や通信、メディアなどの分野に進出している。
また男女平等の流れから妻や娘など女性が資産を継承し、ビジネスや投資の責任を負う事例も増えている。UBS銀行営業推進ディレクターの中辻洋が「女性に対する金融知識提供のニーズは増加傾向にある。今後は女性の富裕層をつなげるネットワーキング活動などを積極的に行っていく」と語るなど、富裕層向けプライベートバンクも注目している現象だ。
世代別の価値観の違いも明確になってきている。50代以上の富裕層は商品の購入やサービスの利用に際してその背景にある哲学やもてなしといったものを重視する傾向があるが、40代以下の新しい富裕層は違う。豪邸や高級車、ブランド品などには興味がなく、食事にもお金をかけない。興味があるのは、ビジネスだ。自分の資産をどう活用すれば、ビジネスがもっと大きくなるのか。そこに注力している人が多い。