ビジネスを大きくしたいのは、さらに金持ちになりたいからではない。彼らが重視しているのは、「ソーシャルインパクト」。つまり自分がどれくらい世界にインパクトを与えられるか、だ。40歳未満のビリオネアのなかで最も多く資産を保有するマーク・ザッカーバーグは、15年に「保有するフェイスブック株の99%を、人類の進歩のために贈与する」と発表した。
前出のビリオネア・レポートには、「私の世代では、前の世代が行ってきた偽善とは決別したいと考えている。リターンは欲しいが、インパクトがなければならない」という、ビリオネアの親を持つ30歳の男性の発言が紹介されている。次世代のビリオネアは自分の資産を、「恩恵」というよりも「責任」として見ているようだ。
UBS銀行も、顧客から資産を増やすことに関することだけでなく、貧困地域の教育格差をなくすためにはどうしたらいいかといった、社会貢献活動に関する相談を受けることがあるという。日本は寄付の文化が育っていないと言われることがあるが、富裕層の意識は変わってきているようだ。そこには、多額の寄付で世界を良くしていこうと活動する、ビル・ゲイツをはじめとした欧米のビリオネアの影響が見られる。
ソーシャルインパクトの影響が大きくなった背景には、インターネットで情報が拡散しやすくなったことも関係している。「ミレニアル世代」と呼ばれる次世代のビリオネアが物心ついたときには、インターネット環境が整っていた。彼らは、自ら情報を取りに行くのが当たり前だと考えている。UBS銀行デジタルマーケティングディレクターの山本佳司は「若い世代の富裕層は、資産運用の情報についてもファーストタッチがデジタル系のツールになってきている」と語り、UBSでもデジタルマーケティングを使った集客を始めている。
米国の4倍のAI関連特許
近年のビリオネアを語る上で、もう一つ外せない軸が中国の台頭だ。
06年時点で中国のビリオネアの数はわずか16人であったが、17年末時点で中国のビリオネアの数は373人にのぼり、そのうち98%は一代で資産を築いた。
日本のビリオネアがフォーブス19年版の日本長者番付で50人であることと比較すると、中国の勢いがよくわかる。
なぜこのような躍進が可能になったのか。そこには14億人という巨大な人口、従来に比べて大幅に自由化された経済、かつて「世界の工場」と言われた製造基盤や研究開発支出の潤沢さ、テクノロジーの急激な進歩など、複合した要因がある。
政府による支援も大きい。中国政府はAIの支援を再優先課題としている。中国は今や、米国の4倍のAI関連の特許、3倍のブロックチェーン関連の特許を持っているのだ。ある中国人ビリオネアは、「世界中でも、中国以上に成長に適した環境を見つけられない」と断言する。
ただ、競争が激しいのも中国経済の特徴だ。17年にビリオネアとなったものの、翌年脱落してしまった起業家も多い。絶え間なく変革を起こし企業を成長させ続けなければ、優位を築くことは難しい。
中国のビリオネアは、置かれた環境を生かして賢くリスクをとる傾向が他国のビリオネアよりも強い。事業計画を立てて体系的に進めるというより、試行錯誤しながら精度を上げ、急速にビジネスを大きくしていくのだ。絶え間なく変革を起こし、セクター間の垣根を飛び越えてビジネスを発展させようとする。こうした中国のビリオネアのダイナミックな姿勢は、将来のビリオネアのモデルとなる可能性がある。