引退作品で銀行強盗役を選んだロバート・レッドフォードの人生哲学

Photo by Eric Zachanowich. (c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

ロバート・レッドフォードは、心優しき悪漢がよく似合う。出世作の「明日に向って撃て!」(1969年)では、早撃ちの銀行強盗ザ・サンダンス・キッドを演じていたし、同じくポール・ニューマンと共演した「スティング」(1973年)では、路上でイカサマを働くフッカーという詐欺師として登場する。

初期のレッドフォードは好んでこういった役を演じていたフシがある。なかでも「明日に向って撃て!」の銀行強盗役がいたく気に入っていたらしく、その後、自らが主催するインディペンデント映画を対象とするサンダンス映画祭では、役名をそのまま名称に冠している。

銀行強盗や詐欺師を演じても、天性の甘いマスクのためか、レッドフォードの演じる人物は、いつもどこか憎めないものを感じさせた。おそらく根っからの悪役とは無縁の役者なのだ。そして、一方では、ただの美男俳優ではないというイメージも、その後もずっと保ち続けていた。


ロバート・レッドフォード(1981年撮影、Getty Images)

「追憶」(1973年)、「華麗なるギャッビー」(1974年)、「大統領の陰謀」(1976年)、「愛と哀しみの果て」(1985年)、「モンタナの風に吹かれて」(1998年)と数々の名作に主演、最近ではニュースキャスターのダン・ラザー役を演じた「ニュースの真相」(2015年)や、ジェーン・フォンダと共演した高齢者同士の恋愛劇「夜が明けるまで」(2017年)でも気を吐いていた。

しかも、俳優だけではなく、早くから監督業も手がけ、1980年には初監督作品「普通の人々」でアカデミー賞の監督賞も受賞している(不思議なことに、俳優としてアカデミー賞の受賞はなく、主演男優賞としてのノミネートが1973年度に「スティング」で1度あるだけだ。他に名誉賞を2001年度に受賞している)。

また、映画監督と並行して、前述のサンダンス映画祭も主催し、若手映画人の育成にも務め、数々の監督がこの映画祭をきっかけに世の中に知られるようになった。最近では、デミアン・チャゼル監督やライアン・クーグラー監督が、サンダンス映画祭でのグランプリをきっかけに、メジャー作品でのデビューを果たしている。

微笑みながら現金を奪う銀行強盗役

そのロバート・レッドフォードがついに「俳優引退」を表明した。当年とって82歳。クリント・イーストウッド89歳、ウディ・アレン83歳を思えば、まだまだそんな歳ではないだろうが、昨年8月、これから公開される最新作が俳優としての最後の出演作品になると自ら明かしたのだ。


Photo by Eric Zachanowich. (c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

そして、その最後の作品が、「さらば愛しきアウトロー」(原題「The Old Man & The Gun」)だ。この作品のなかで、奇しくもレッドフォードは、彼を一躍スターダムに押し上げた「明日に向って撃て!」と同じく、実在した銀行強盗の役を演じている。しかも、微笑みながら鮮やかに「仕事」をやり遂げる74歳のオールドギャングの役柄だ。
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文=稲垣伸寿

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