引退作品で銀行強盗役を選んだロバート・レッドフォードの人生哲学

Photo by Eric Zachanowich. (c) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved


1981年、テキサス。銀行からスーツを着こなした初老の男が出てくる。男の名前はフォレスト・タッカー(ロバート・レッドフォード)。外見からはとても銀行強盗には見えないが、彼はたったいま多額の現金を奪ってきたばかりだった。逃走用の車を乗り換え、警察の無線を傍受しながら、道路でエンストして立ち往生している女性ジュエル(シシー・スペイセク)に手を貸し、うまく追跡を交わす。

数日後、今度は仲間のテディ(ダニー・グローヴァー)とウォラー(トム・ウェイツ)と別の銀行へと乗り込む。2人ともフォレストと同じ高齢者の男たちだ。フォレストがポケットの拳銃をちらりと見せて、微笑みながら「現金を入れるように」と銀行員にバッグを差し出し、見る間に「仕事」は完了する。この時、非番の刑事ジョン・ハント(ケイシー・アフレック)も行内にいたが、まったく犯行に気づかないほど、スムースに事は進んだ。


Photo by Eric Zachanowich. (c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved

フォレストは、車がエンストして立ち往生していたジュエルに惹かれ、別れ際に聞いた連絡先に電話をして、彼女に会う。彼女は最初からフォレストが普通の人間ではないと気づきながらも、彼の機転の効いた会話や優しい態度に心を奪われていく。ジュエルと親しくなったフォレストは、夫を亡くし、3頭の馬と暮らす彼女の牧場を訪ねる。若い頃に妻と別れたフォレストには、ひさしぶりの安息に満ちた時間だった。

一方、フォレストたちの事件を担当することになった刑事のジョンは、彼らが2年間で93件もの銀行強盗を成功させていたことに驚く。しかも、この間、1人の負傷者も出していない。そのフォレストたち3人は、今度は一世一代の仕事として、さらに大きな銀行を襲う計画を立てる。彼らはメディアから「黄昏ギャング」と呼ばれ始めるのだった。

一度も人を撃つことはなかった

高齢者が犯罪に手を染める作品としては、最近では、80歳代で麻薬の運び屋になった退役軍人の実話に基づいてつくられた、イーストウッド監督・主演の「運び屋」(2018年)があったが、「さらば愛しきアウトロー」にもモデルとなった人物がいる。

実在したフォレスト・タッカーは、1920年、フロリダ州生まれ。数々の銀行強盗を敢行し、その度に刑務所に入るも、計18回の脱獄に成功している。1979年には、刑務所内で手製のカヤックをつくって、海へと逃亡、大きな話題を集めた。70代になっても大金を強奪することを人生の目的として、大胆な犯行を完璧にやり遂げた。そして映画と同じように、銃を持ちながらも人を撃つことはなかったという。

作品の冒頭に「This Story is Mostly True」とクレジットが出るので、必ずしもそのままの実録というわけではないのだが、レッドフォードが、自分の「俳優としての引退作品」に、この銀行強盗の物語を選んだのは、やはり彼なりの思い入れがあったからだろう。
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文=稲垣伸寿

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