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2019.07.18

もう観光客増は目指さない。熱海は「サードプレイスとしてのまち」に進化する

machimori代表 市来広一郎

“復活した観光地”として注目を集める熱海で、ある変化が生まれている。

政府が観光立国を目指し、観光客の誘致を積極的に進める中、”熱海の奇跡”と呼ばれる復活劇の仕掛け人・まちづくり企業machimori(マチモリ)代表の市来広一郎氏は、「観光客の増加は目指さない」と語る。国内屈指の観光地である熱海が目指す姿、そして新たな「観光のあり方」とは──。



観光客の増加に伴って見えてきた「均質化」の懸念

「僕は熱海で保養所を運営する両親のもと、外から人が来るのが当たり前の環境で育ちました。今も観光客が増えるのはうれしいですし、熱海は昔から外部の人を受け入れる土地であることは変わりません」と市来氏は語る。その一方で、観光地として均質化への懸念も出てきたという。

「熱海に再び人が集まるようになったことで、短期的に売れるコンテンツを提供しようと考える事業者も出てきました。短期的に稼ぐのであれば、今集まっている観光客に求められるものを出せばいいのかもしれません。でも熱海には、バブル崩壊とともに外から入ってきたものが次々に引き上げ、街そのものが衰退してしまった歴史があります。ブームに乗るだけでは長続きしません」


machimori代表 市来広一郎

近年、国内の人気観光地では、その土地ならではの商品・サービスでないものまでが提供される傾向が見られる。たとえば土産物店で手にしたスイーツのラベルをよく見ると、原材料も生産者もその土地には無関係、というように。

安易に流行に乗り、求められるコンテンツばかりを提供していけば、観光地としての差別化、良質な旅行体験の提供を長期的に行っていくことは難しくなる。

「中には、サービスの質が落ちてしまったり、接客がイマイチだったりする事業者がいることも耳にします。これでは街に訪れた人たちの満足度が落ちてしまう。このことに、熱海で商売をしてきた方々は危機感を抱き始めています。僕もこの現状を見て、熱海が目指すものを明確に打ち出す必要があるなと感じるようになりました」
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文=福田さや香 写真=栗原洋平(市来 広一郎)

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