ハーブを摘み、生きる喜びと働き方を考えた|フィンランド幸せ哲学 vol.1

ヘルシンキ・ワイルドフーズ社の共同創立者アンニカ・ハンヌス


この旅をする前に、北欧で活躍する日本人起業家から聞いた「起業家も、週末はハーブを摘みに行くんです。イメージとは違いますよね」という言葉が印象に残っていた。日本ではなかなか耳にすることのない週末の過ごし方だ。

今回、まさにそのハーブ摘みを体験して、私たちはそんな心に余裕のある暮らしがどれほどできているだろうかと思った。



働き方改革で労働の効率化が求められ、働きながら子育てをする女性の話を聞くと、仕事と子育ては両立できるのだろうかと正直、怖気ついてしまう自分もいる。

かつて新聞記者だった私は、いつまで仕事をしても平気なタイプだった。翌日の朝刊に載る原稿がデスクの目を通ってひと段落した後、午後9時からが勝負だと思って仕事を続け、一杯飲んでから深夜に記事を書くこともあった。もちろん翌日、書き直すことになるのだが、恥ずかしながら一気に筆を進めるにはいい手だった。

入社6年目に身体が悲鳴をあげた

だが、30歳を前にして、「月3回の宿直勤務の翌日がキツイな」と感じ始めたところ、突然身体が悲鳴をあげた。ウイルス性の急性肝障害になったのだ。入社6年目を迎える春だった。

39℃以上の熱が出て、キュッと胸が締め付けられるように苦しい。頭が割れそうなほどの頭痛と高熱が続き、病院にも行けず、もうダメかもしれないと思った。数日後に熱は収まったものの、胸は苦しく、少し歩いただけで息が上がった。県立病院の医師には「1カ月の安静が必要」と診断され、休むことに。それで「ちょっと仕事が休める」と、内心ホッとしていたのも事実だ。誰かにストップをかけてほしかったのかもしれない。

横になる体勢がいちばん楽で、2週間ほど自宅で寝込んだ。そのあと、両親が車で迎えに来て、1週間は地元へ帰った。症状は快方に向かったある日、まだ自力で歩くと息が上がったので、「桜が見たい」と両親に頼み、助手席に乗せてもらった。車窓から桜を見たときは、どれほど心躍ったか。数週間ぶりに自然に触れ、ただ生きていることに喜びを感じた。

あの時から、私は休日にはしっかり休むようにしている。自分ごととして、働き方について考えるきっかけとなった出来事でもあった。思えば父親も設計関係の仕事をしていて、土日は食卓のテーブルに大きな図面を広げ、黙々と仕事をしていた。子供ながらその姿を見てきて、影響を受けていたのかもしれない。

だけど、今の私はスケジュール的に切迫していても、土日はほとんど仕事をしない。それでも心のどこかに、ほんのり罪悪感はある。「休みに仕事を進めたら、もっと捗るのに」と。

なぜフィンランドでは、働きやすく、豊かな暮らしが実現できているのだろうか。この旅で、私はフィンランドの人たちの生き方のポリシーとも感じられる価値観に触れ、自らの考えを新たにすることになる。旅は次回へと続く。

文=督あかり 写真=Aleksi Poutala

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