──オープン後、一番記憶に強く残っている嬉しかったことや、わくわくした瞬間を教えてください。
お店をオープンして2〜3年経った頃に、お客様から「なっちゃんが若くてよかった。私、死ぬまでなっちゃんのおいしい料理が食べられるわね」と言われたことです。24歳で独立したので最初は苦労しかなかったけれど、そのときに初めて、若くてよかったなと思いました。
マンゴーケーキをつくる、レストラン「été(エテ)」のオーナーシェフ・庄司夏子
──これまでで最も苦労したのはどのようなことでしたか?
資金調達です。経営方針や料理について自分で全部管理したかったので、誰かにオーナーになってもらうことは最初から考えていませんでした。でも、貯金もなかったし、若すぎたので世間的な信用もなくて銀行からお金も借りられなかった。
最終的には日本政策金融公庫から開店に必要なお金を全額借り入れたのですが、承認を得るまでにすごく時間がかかりました。はじめは断られてしまったけど、税理士さんと一緒にもう一度お願いして、最後は、「これを売ります」とマンゴーのケーキを持って行ったんです。それでやっと、「確かにこれはすごいね」と、納得してもらえて。書類だけで勝負していてはだめだな、と実感しました。「これで勝負します」という決意を、実物を見せながらお願いすれば、お金を貸す側も納得してくれるんだな、と。
──料理の業界に対して感じている課題や、ご自身で実現していきたいものがあるとすれば、それはどんなものですか?
料理人の多くは、休みもほとんどなくて、修行期間中は収入も少ないので自由に使えるお金もありません。でも、修行しているときこそ色々なお店や土地に足を運び、実際に自分で料理を食べて、さまざまなものを体得することが必要です。最近では私も人を雇えるようになってきましたが、自分のお店では、なるべくスタッフが自分の勉強のための時間やお金を確保できるようにしています。料理業界全体が、少しずつそんなふうに変わっていくといいなと思っています。
庄司夏子(しょうじ・なつこ)◎1日1組4席のプライベートレストラン「été(エテ)」のオーナーシェフ。高校卒業後、2007年からミシュラン1つ星の代官山「Le jue de lassiette (ル ジュー ド ラシェット)」で修行を積み、2009年、南青山「florilege(フロリレージュ)」のオープニングから携わり、後にスーシェフとなる。2014年、24歳で「été 」をオープン。同店は3年連続でSilver award を受賞し、世界のレストランランキングの1つOADにおいても日本人女性シェフとして初めてランクインした。