──ケーキを有名にしていくためには、どんな工夫をされたのですか。
まず、国内での認知度をあげるために努力したのが、マンゴーのケーキだけを世間に出し続けることでした。料理人の多くは、旬の食材を使った料理やデザートを紹介しようとするものです。でも、私はオープンしてから1年は、どんな媒体で紹介してもらうときも、どこの催事に出店するときも、常にマンゴーのケーキだけを出し続けました。自分のレパートリーにぶどうやいちごのケーキもあったけど、いつも同じ品物を露出していたほうが、人の記憶に残りやすいと思ったんです。
極端な話ですが、催事で「ぶどうのケーキを出してください」と百貨店側から依頼されても、「マンゴーも一緒に売っていいですか?」と聞いていました。そもそも、看板商品にマンゴーを選んだのも、通年で使えるから。日本で一年中手に入って、かつ、いつでも味も香りも良いフルーツを選んだんです。
海外でも話題になった1台約1万円のマンゴーケーキ。
海外進出で意識したのは、海外のフーディーにマンゴーのケーキを食べてもらい、SNSで写真を発信してもらうことでした。最初のチャンスとなったのは、ヴィッキー・ラウさんという女性シェフとの出会いです。
独立から2〜3年経った時期に、香港にある彼女のお店で食事をして仲良くなり、香港で一緒に料理のイベントを開かせてもらいました。イベントには海外の食通たちが集まり、SNSで私のマンゴーケーキもどんどん発信してくれたんです。おかげで、海外での認知度もあがっていきました。
──ケーキが有名になり、今ではレストランの営業にも力を注がれていますが、これからどんなことを実現していきたいと考えていますか。
規模を拡大していくことが成功とする考え方もありますが、私は、その逆です。5年続けてみた自分の体感としては、どんどん狭めることで、「最高」のサービスに近づいていく気がしています。
「été」に入るためには、わざわざ予約してケーキを買わないといけません。しかも、そのケーキは1万円以上もします。だからこそ、お客様はスペシャルなときや、大事な人に渡すときのために買ってくれるはずです。そのケーキがインビテーションになり、今度はレストランの予約ができるようになる。簡単に来られるお店ではないからこそ、お客様は大切な人と来ようとしてくれます。
スペシャルな体験をしたいと思っている人たちに向けて、私の口からきちんと料理の本質を伝えたい。お客様にとっても、私にとっても、意義のある空間をつくっていくこと。これが、私にとっての、「最高」です。