ビジネス

2019.07.19 07:00

市役所職員が唖然とした、シリコンバレー流の起業家コミュニティづくり


フィンランドが発祥の世界最大級のスタートアップの祭典「Slush」の日本版として、今年2月、お台場で開催された「Slush Tokyo」。ピッチコンテストでは、「Clarity」の古谷聡美が優勝した。女性1人1人にとって働きやすい会社を見つけられるサービスで起業しようと、昨年の500 KOBEに参加していた起業家だ。



実は、この時、Slush Tokyoの会場には、昨年500 KOBEに参加した7人のCEOたちの姿があった。ただし、この日、コンテストのステージに立ったのは、古谷と「Pegara」の市原俊亮だけ。残りの5人(そのうち二人は海外から)は応援のために会場に駆けつけたのだと言う。古谷と市原は、神戸で過ごした仲間たちに囲まれるだけで緊張感が和らいだ。古谷は「大舞台だったが落ち着いてピッチができた」と感謝する。

本場シリコンバレー流とは?

どうすれば、このように強固なコミュニティが生まれるのだろうか。昨年の500 KOBEの初日、プログラム責任者のアーロン・ブルメンソールは、集合したCEOたちに、いま履いている「靴」を投げろと唐突に指示した。投げた靴を拾った人が自己紹介をするアイスブレイクだ。

3日目のハロウィーンの日には、日本を訪れていたニューヨーク市のスタートアップ担当者らを招いて、パーティーを開いた。その週末はカラオケ大会、アーロンから「40人入れて、ステージのある部屋を予約してほしい」と、まじめな顔で相談された神戸市の担当者は唖然としたという。



起業家育成プログラムらしからぬ毎日が続くが、これが激戦のシリコンバレーで勝利を収めてきた500 Startupsのやり方なのだ。

Clarityの古谷は、神戸での6週間を「学生として米国留学したときと同じ感覚を味わった。東京ではいつも感じる起業家間の優劣というパワーバランスを、ここでは感じない。しかもほぼ同じ成長段階にあるのでフラットな関係になる」と振り返った。

Slushに限らず、プログラムが終わったあと、彼らは東京や神戸で再び顔を合わせる。ときには「あのVC(ベンチャーキャピタル)はヤバい」などの本音トークも炸裂する。

500 Startupsのパートナーとして、2016年の500 KOBEの初回プログラムを設計したザファー・ユニスは、「日本のスタートアップ業界はまだ発展途上にある。新しいVCやイベントが次々と生まれるので、コミュニティに入る価値はとても高い」と話す。

まもなく、4回目となる500 KOBE、2019年のプログラムがアナウンスされる。今年はどんなコミュニティが新たに生まれるのか、楽しみでならない。

連載:地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部重則

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