そんな彼らを待ち構えているのは、まるでドラマのような波瀾万丈の日々。初めての資金調達が決まり、歓喜の雄叫びを上げたその翌日に、共同創業者でエンジニアであるCTOが突然チームから抜けると言い出すといったような、ジェットコースターのような毎日が続く。
そして困難に直面して途方に暮れたとき、起業家の仲間から「みんなそんなもんだよ」と言われるだけで、挑戦を続ける勇気がもういちど湧いてくる。だから、起業家が成功するには、同じ立場にある人たちでざっくばらんに話し合えるコニュニティが必要だ。
シリコンバレーの有力シードファンド「500 Startups」が行う育成プログラムでは、起業家たちによるコミュニティをつくるのが目的の1つとなっている。起業家が同じ境遇のコミュニティに加わる大切さを理解しているからだ。しかし、日本ではこの点が軽視されがちである。
そんななかで、本場シリコンバレーのノウハウが凝縮された「500 KOBE ACCELERATOR」では、200社を超える参加申込から合格率約8%という難関を突破した起業家たちによって、毎年、新たなコミュニティが誕生している。その仕組みを紹介したい。
コンテストからコミュニティは生まれない
「500 KOBE ACCELERATOR」では、講義と個別指導からなる合宿のような6週間を経て、デモデイが開催される。そこで優勝者を決めたりはしない。なぜかとよく聞かれるが、そもそもデモデイは、投資家にビジネスプランを披露するもので、プランの優劣を競うものではない。
逆に、各地で開催されるスタートアップのコンテストは、優勝者が決まる。実はこれがコミュニティづくりには曲者である。
コンテストでは、書類審査を勝ち残った10社ほどが、最終選考会で審査員の前でビジネスプランを説明する。登壇前の控室では、CEOたちが緊張した面持ちで壁に向かってブツブツと発表練習を繰り返している。自分以外の全員がライバルで、CEO同士で語り合うことはない。やがて、優勝者が華やかにステージ上で発表され、主催者たちが勝者を称えようと取り囲むと、受賞を逃した参加者たちはそそくさと会場を去っていく。
これでは、何度やってもコミュニティは生まれない。民間企業がコンテストを主催するのは理解できるが、自治体がこのような優劣を競うコンテストをやっているのを見るたびに、わが目を疑う。コミュニティづくりすることなしに、エコシステムは実現しないのを判っているのだろうか。