ピクサーが大ヒットを生み続けるため、全社員の仕事を止めた「1日」

2013年、3Dアニメ映画『モンスターズ・ユニバーシティ』の制作チームとエド・キャットルムたちの集合写真。

『トイ・ストーリー4』が公開中のピクサーが、大ヒットを世に送り出し続けるために全社員1200人の仕事をストップさせた1日、「ノーツデー」とは。トイ・ストーリー3でアートディレクターを務めた堤大介に話を聞いた。


1200人の社員を抱え、大ヒット映画を生み続けるピクサー・アニメーション・スタジオが、1日だけ全員の仕事をストップさせたことがある。

それは「ノーツデー」と名付けられた2013年3月11日のことだ。ノートとは「率直なフィードバック」を意味する言葉であるが、全社員の仕事を1日ストップするだけで、膨大なコストがかかる。

なぜノーツデーが必要だったのか。

『トイ・ストーリー3』のアートディレクターで、14年に独立してピクサー時代の同僚ロバート・コンドウとともにアニメスタジオ「トンコハウス」を運営する堤大介によると、13年当時の社長のエド・キャットムルはヒット作を連発させながらも、将来に危機感を募らせていたという。

それは、「失敗によって得られる、学びの機会を逸している」というものだ。

そこでキャットムルら上層部は丸一日かけてピクサーの課題を議論することを発案した。1カ月前からオンライン上で社員から議題が募られたため、当日だけでなくその日に向けてクリエイター同士の議論が自然と起きていったという。

「ノーツデー」当日。朝礼でチーフ・クリエイティブ・オフィサーのジョン・ラセターは社員全員の前で涙を流した。投書にはジョンへの不満を訴えるものが少なくなかったのだ。ジョンは謝罪し、「この指摘は非常に重要なので、役職に関係なく皆本音で話すように」と促した。トップの人間が心情を生々しく社員に吐露する。本音で話をしていいのだと“皆の心にスイッチが入った瞬間”だったという。

外部委託でない内発的なプロジェクトだったことも大きな意味を持ったようだ。「すぐに組織や企業が変わったわけではない。でもノーツデーによって人が変わったんです。エドが重要視していたのは『この日に向かって社員全員がピクサーの課題や未来について真剣に向き合って1カ月を過ごしたこと。それだけでも大きな価値がある』と」。

ノーツデー後の17年に『リメンバー・ミー』という世界的大ヒットを世に送り出し、今年7月には大ヒット映画の続編『トイ・ストーリー4』の公開も控える。
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文=瀧口友里奈

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