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2019.07.17 07:00

企業PRのための期間限定の社会貢献はアリなのか? 広告の本質を考える


すでに世界的に有名な企業であるナイキは、その名前をさらに広める必要はあまりない。しかし、「良い企業」として認知される必要がある。なぜなら「良い企業だ」と消費者が認知することで継続的に商品を購入したり、ブランドを広めたりするようになるからだ。一過性の消費者ではなく、根強いファンになってもらう戦略だ。最近のトレンドとしてこの流れはさらに加速している。エシカルやサステナビリティをうたう企業は珍しくなくなった。

たしかに最新設備や真新しいバスケットボールコート、そして有名選手のワークショップは子どもたちにとって夢のような世界だ。その瞬間の感動は本物だろう。しかし、バスケを外でなかなかできない子どもたちのことを考えるとすれば、(最新設備ではなくても)長期的に使用できるコートを提供するのがベストなのではないだろうか。この期間限定の取り組みは、「良い企業」に見せる仕掛けだったのではないかと思ってしまった。

歴史ある広告祭として知られるカンヌライオンズは、「ソーシャルグッド」な作品が多く表彰される傾向にある。この作品もその一つだ。しかし、本当の「ソーシャルグッド」とはなんだろう。持続可能性がなくとも誰も思いつかないアイデアであれば、それは評価されるべきなのか。

過去にカンヌライオンズのフィルム部門で審査員を務め、現在多摩美術大学で広告論、マーケティング論、メディア論を教える佐藤達郎教授にこの晴れない気持ちをぶつけてみた。広告の専門家はこのプロジェクトをどうみるのだろうか。(以下、佐藤談)

僕の意見としては、1カ月というキャンペーン期間は広告業界では長い方だと思います。2011年のカンヌライオンズのメディア部門グランプリを獲った「ホームプラス」のバーチャルスーパー(駅のホームに商品のデジタル・ポスターを貼り、スマホで購入できる仕組み)は数時間しか提供しなかったとして、批判を浴びたこともありました。

もちろん、企業は社会にいいことをやった方がいいけれど、売り上げや利益につながらないなら意味がないと思っています。本気でそれに取り組むべきはメディアです。でも今は広告、マーケティング、そしてジャーナリズムの境がどんどん溶けてきています。SNSの発展により、消費者はよりセンシティブになり、企業もそれを感じとっているから、取り組みの本気度は増しています。

本気度が増している例として、2016年カンヌライオンズのチタニウム部門でグランプリを受賞したアウトドア用品大手のREIの取り組みがあります。アメリカで一番儲かると言われるセールの日、ブラックフライデーに全店舗、そしてオンラインストアまで閉店しました。それは「買い物している場合ではない。外に行こう!」とアウトドア用品店としてのメッセージを打ち出すためでした。このようにリスクを積極的にとり、本気度を見せている企業は増えています。

今はまだ広告の過渡期です。今は賞賛されているこのナイキの作品ですが、消費者の求める「本気度」が高まった結果、将来的には批判されるような時代がきてもおかしくないと思います。


2019年カンヌライオンズの別部門の審査員にも聞いたところ、あまりにも期間が短いものは選ばないようにしている、とのことだった。

ただ売れればいい、ただ社会にとって良ければいい。そんな単純な話ではなくなってきている。より複雑化した業界の中で、ナイキの作品は決められた予算で一番「効果」を出した事例ということなのだろう。

ソーシャルグッドな広告が増えている中で、その「本気度」が問われる場面は増えている。今一番広告は進むべき道を問われているのだと思った。

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