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いま、日本のウェルネスはどの段階にあるのか。新たなトレンドは生まれたのか?ボストンコンサルティンググループの御立尚資氏と、本誌副編集長の谷本有香が動向を探った。


谷本有香(以下、谷本):まずは、日本のウェルネス分野の現状をどうとらえていらっしゃるかを、お聞かせください。

御立尚資(以下、御立):今年のアワードは、大きな世の中の流れと合致している方々が選ばれたと感じています。キーワードは「全体観」。自分が心身によいことを実行して、家族も周囲も会社も、そして社会も健康になることを思い、「全体観」をもって取り組んでいる人ではないかと。

谷本:インフルエンサーとか、ロールモデルといわれる人たちですね。それを実践するには、フィジカルだけでなく、心の健康面も重要になりますね。

御立:はい。人間は、人と接するときにその人のBMIを分析しているわけではありません。「あ、この人いいな」とか「気持ちいいな」とか、「いい気が出ているな」とか、そういう全体的な見方をする人が増えているのは面白いなと思います。

谷本:ウェルネスの本質に人々の思考が近づいているということでしょうか。

御立:そう思います。山登りに例えると、ヴィーガンやマクロビから入る人もいれば、ヨガから入る人もいる。けれど最後に目指すのは、全体として気持ちいい、クオリティ・オブ・ライフだという考え方がやっと定着してきたように感じます。いろんな入り口から、自分の体が何を必要としているのかを探り、それを選んで実践する人が増えているのはいいことだと思います。

医療分野に貢献するAIの全体観

谷本:医療分野における「全体観」については、どのようにお考えですか。

御立:AIを使ったビッグデータ解析により、全体を見通し、相関関係を導くことが可能になりつつあるということだと思います。西洋的自然科学というのは、人間は、臓器の集合体で、臓器は、細胞の集合で、細胞はさまざまな分子から成り立ち……というようにデカルト的に物事を細分化して、分析していくものですが、その手法に、徐々に限界が見えてきた。と同時に、分けてしまった何億ものモノが相互作用していることがわかってきた。そこに台頭してきたのが、AI×データです。あるもの全体の相関関係を見ることで、この人はがんじゃないかという仮説を導き出す。興味深いのは、AI化により、現代の医学が、全身の状態を総合的にとらえる漢方や東洋医学に近づいているということです。いまは、個人も医療も、漢方的全体観に移行している時代なのではないかと考えています。

自然の一部となる「楽」を体感する

谷本:今後、日本的ウェルネスを世界に発信していくとして、それはどのような文脈でつくられていくのでしょうか。

御立:ウェルネスに不可欠なもののひとつに、“自然の一部となることの心地よさ”というのがあります。では、どんな自然の中で人は心地よさを感じるのか? それは、自然を主体に、人間が手をかけ、持続性が高まっている自然である、というのが私の持論です。里山や棚田がそうですね。「自然も、我々も気持ちいい」という世界観を大事にしながら、日本の風土を生かして、日本人も楽しめるものをつくることが大切です。具体的には、禅寺で地場産の食材を用いた精進料理を食べ、宿坊に泊まり、枯山水の庭と対峙して周辺の里山を歩く。これは強烈なコンテンツだと思っています。

谷本:ウェルネスは巡りめぐって自然崇拝とか、万物に神が宿るという日本古来の宗教観に戻っているのかもしれませんね。

御立:先人の知恵も恐るべしです。市中の山居に構築した茶室も、にじり口をくぐれば、姿勢も呼吸も整い、自然の一部となれるという総合的なウェルネスですからね。利休さんが現代に生きていたら、ビルの中に小さな茶室をつくっていたかもしれませんね。

谷本:ウェルネスが「全体観」という大きな世界観を得ることで、むしろその本質が理解しやすくなったように感じます。ウェルネスは、まさにこれからが本番ですね。


みたち・たかし◎ボストン コンサルティング グループ シニア・アドバイザー。日本航空を経て、ボストン コンサルティング グループに入社。2005年から15年まで日本代表。現在、複数の上場企業の社外取締役のほか、京都大学、早稲田大学 客員教授、ドナルド・マクドナルド・ハウス・チャリティーズ・ジャパン専務理事、大原美術館理事などを務める。


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Promoted by FiNC Technologies 文=五十嵐せい 写真=後藤秀二 編集=高城昭夫

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