最大の敵は美味しさか? 料理に必要な「発想の逆転」

塩を使わず調理したチキンを、南仏の郷土料理ラタトゥユとともに

ヨーロッパの情熱の街、スペインのバルセロナ。ガウディの名作サグラダ・ファミリア(聖家族贖罪教会)があるその街には、僕のメンターである大先輩が住んでいます。

サグラダ・ファミリアの芸術工房監督である、彫刻家の外尾悦郎さん。地元福岡の大先輩であり、ヨーロッパの先輩であり、そして実は、僕も出演したことのある『ダバダ〜♪』で有名なネスレのCMの先輩でもあります。

外尾さんを初めて知ったのは、まさにそのCMで、当時は「違いのわかる男」としてコーヒーを飲んでいるバルセロナの彫刻家というイメージしかありませんでしたが、今ではメンターとして、公私とも仲良くさせてもらっています。



僕の住むニースからバルセロナまでは、飛行機で1時間ほど。ヨーロッパのLCCが充実しているおかげもあり、年に1、2度はバルセロナに飛び、外尾さんにお会いしています。そこで話す内容は、サグラダ・ファミリアや宗教、建築、人類についてなど。時には熱く、時には冷静に、そして心から笑い、悲しみ、愉しみながら言葉を交わし、教養と心の栄養として、毎回多くのことを吸収させていただいています。

敵を味方につける、逆転の発想

今年も5月、日本から来た仲間とともに訪れましたが、今回は、「最大の敵(ライバル)を味方につける」という大きな気づきがありました。

サグラダ・ファミリアは、通称「光の教会」として、空に向かう教会と言われているのですが、それは「逆さ吊りの実験」によって、逆転の発想をしていることに由来します。それは、「建築家の最大の敵は重力である」という常識や通念に対し、その「地球に向かう重力を味方につける」という逆の発想をしているからです。



それにしても、サグラダ・ファミリアを訪問するたびに、その逆さ吊り実験の模型を見ていたのですが、それに強く惹かれたのは今回が初めて。同じものを見ても、その時の自分の心理状況や世の中の流れ、または一緒に訪問する仲間によって受け取るものが違ってきます。捉え方がコンテンポラリーに変わっていく。これこそがアートだなと思います。

ガウディがカタルーニャにこの無理難題な教会を産み落としたことは、人類に生きる努力を続けることの大切さを伝えようとしてるのかなと思います。ただ、バルセロナの最大の観光スポットになった今、それはただの“世界遺産の教会”として見られがちです。

人は、愛情がなければ表面だけを見てしまう。外尾さんは、「好きな人が見ている方向を見るということが愛情」と言いますが、視覚以外の感覚や心を通して、ガウディの伝言に耳を傾ける人が増えたらと思わずにはいられません。


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文=松嶋啓介

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