最大の敵は美味しさか? 料理に必要な「発想の逆転」

塩を使わず調理したチキンを、南仏の郷土料理ラタトゥユとともに


さて、この最大の敵を味方につけるという逆転の発想が何のヒントになったのか。

ヒントや気づきを得て、それを自分ごとにするには、まず自分自身を理解することが不可欠です。そして、料理人である僕にとってはそれは「料理の最大の敵は何であるか」ということでした。

自分の敵はなにか。つまり、自分が日々何と戦っているかということです。料理というのは常に美味しいものを食べたいという食欲、または美味しいものを作って褒められたいと言う承認欲求に対して、日々努力を続けることであると思います。そう考えると、「料理の最大の敵は美味しさである」と解くことができます。

そこで、ではその美味しさを味方につけるということはどういうことなのか? という問いを持つことができます。とはいえ、その前に、そもそも美味しさとはどういうことなのか。僕はまずその正体も突き止めなくてはいけないですが……。

味覚の観点でいうと、美味しさとは、舌の上にある味蕾というレセプターから五味(甘味、塩味、苦味、酸味、うま味)を感じることから始まります。ドーパミンを引き出し、脳に快楽を与える「塩味」と「甘味」が他の味と絡むと美味しいと感じるのですが、その塩と糖は健康にいいとは言い難いです。

それをどのように味方につけ、残りの「苦味」「酸味」「うま味」で、脳ではなく身体に悦びを与えることができるか。それが、未来へ続く逆転の発想であるように思います。



外尾さんは、「生きることは、本来は命がけである」ともおっしゃてます。それは貪欲でなければいけないということ。僕は味覚という感覚を使って、意識高く、美味しさを味方につける方法を模索しなけらばならないと感じています。

さて、外尾さんは現在、最後の塔であるイエスの塔の製作準備をしているようです。問いを持ち続けている師がどのような作品をつくるのか、非常に楽しみです。

連載:松嶋啓介「喰い改めよ!!」
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文=松嶋啓介

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