ビジネス

2019.07.22

「雨ニモマケズ風ニモマケズ」 日本が誇る椿油を大島から世界へ

株式会社椿の日原行隆社長

利益向上、市場拡大、株価上昇と、目に見える成果を追い駆けることばかりが、必ずしも「正解」として求められることがなくなってきた昨今。これからの組織、そして私たち個人の在り方はどう変わっていくのだろうか?

そのヒントを探るべく、日本の酒蔵の多様性を継承することを目的に、ユニークな事業展開を進める「ナオライ」のメンバーが、これからの社会を創るキーパーソン、「醸し人」に迫る連続インタビュー。

第6回は「農業と芸術と経営」の三位一体をモットーに、国産ヤブ椿の種と非加熱製法にこだわり、伊豆大島で高品質の椿油の製造販売を行う「椿」の日原行隆さん。

累計販売本数80万本を超え、多くの著名人も愛用する化粧品「三百つばき」や「Japoneira(ジャポネイラ)」を手掛ける同社だが、その経営理念は詩人で童話作家である宮沢賢治に多大なる影響を受けているという。その精神に基づき織りなされる、地域に根ざし、自然を愛する事業について話を訊いた。

──扱っている伊豆大島の椿は、他の地域のものと違いはあるのでしょうか?

世界に生育する椿の70%は、日本の固有種である「ヤブ椿」を原種としています。とくに気温の低いヨーロッパでは、耐寒性の優れたヤブ椿が多いのですが、それは約400年前にポルトガルから来た宣教師か船乗りが、日本から種を持ち帰ったもので、記録も残っています。今でもポルトガルでは、椿を「日本から来たもの」を意味する「Japoneira(ジャポネイラ)」と呼ぶそうで、弊社の商品名もそれに由来します。


ポルトガルで生育する樹齢400年のヤブ椿

ヤブ椿の二大産地とされているのは、日本国内では大島を中心とした伊豆諸島と長崎県の五島列島。大島には約300万本の椿が自生しており、伊豆諸島全体で国内生産量の約60%を占めています。

厚生労働省が定義するように、椿油はヤブ椿の種を搾り精製した油のことを指します。椿油商品の成分表にはカタカナで「ツバキ種子油」と表記しますが、弊社ではそのツバキ種子油を使った商品のみを展開しています。



手のひら一杯の量から30mlの油が抽出されます。大半は原料を蒸してから細かく砕き、圧力をかけて油を搾りますが、椿に熱を加えて精製すると、一部がトランス型脂肪酸(分子構造が変化した脂肪酸を有する不飽和脂肪酸)となってしまいます。これは人の肌に使うには適切とは言えません。

一方、弊社では20年以上前に開発した特許製法、すなわち搾油の段階で1度以下で絞ることにより「生の椿油(エクストラ・バージン・オイル)」を抽出することに成功しました。熱を加えないことで、植物が本来持つ自然の恵みを余すところなく活用することができます。大学機関の研究により、エクストラ・バージン・オイルは、加熱精製したツバキ油に比べて2.5倍の保湿力があることも証明されました。
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監修=谷本有香 インタビュー=三宅紘一郎 校正=山花新菜 撮影=藤井さおり

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