──国産のヤブ椿の種を、熱を加えずに加工するところにこだわりを感じます。余った絞りカスはどのように活用するのですか。
カスにはまだ油が含まれているため、二番搾りを行い、イタリアの有名家具ブランドの手入れに使用していただいています。さらに余ったカスは発酵させて堆肥にし、地域に無料で配ります。これを畑に撒くことで、カスに含まれる成分が害虫への忌避効果に役立ち、大変喜ばれています。また、例えばレモンの場合、搾りカスの堆肥を撒くことで実が倍近く大きくなるのです。
──種をいっさい無駄なく使っているんですね。
そうですね。毎年9〜11月、住民の皆さんからも自生した種を買取らせていただいています。買取りを始めて20年弱になりますが、毎年顔なじみの人が持ってきてくださり、また年々その数も増えています。弊社のものづくりの姿勢を見て、ファンになってくれる人が増えているからでしょうね。
海外から他品種の油をドラム缶ごと仕入れ、大島で精製し、大島産であるかのように販売をすることも、正直できなくはないです。しかし、こうしたやり方は地域に利益をもたらさないし、私は絶対にやりたくない。あくまでも大島産の椿の種で油を絞ることが事業の根幹なのです。
社員全員で「雨ニモマケズ」を唱和
──地域一丸となって椿油を生産をしているんですね。地域の方々は、自生した椿が高級な精油になることをどう捉えているのでしょうか。
昔から大島には多くの椿園が存在していましたが、住民の皆さんにとって当たり前の風景だったために、その価値が真に理解されていなかったような気がします。一方、世界から見たら、こんなに良質な椿が生育する島は他にないという感覚なのです。そこでイギリスの国際椿協会の編集者を島に招待し、ヤブ椿の原点は伊豆大島にあるということを発信してもらいました。
また、全世界に約50カ所ある国際ツバキ協会認定の「国際優秀つばき園」への立候補を各園に働きかけたり、その申請における諸手続きの支援を行ったりしました。これに登録されれば、世界が認める名誉ある椿園となれるのです。結果的には、この小さな島に国際優秀つばき園を3箇所も登録することができました。住民の皆さんが島に誇りを持つキッカケにもなったと思います。
──宮沢賢治の思想が、椿の経営指針になっていると聞きました。なんでも、朝礼は宮沢賢治の詩を朗読することから始まるのだとか。
30年程前、花巻市にある宮沢賢治記念館に行った際に、「雨ニモマケズ」の詩をじっくり読んでびっくりしたんです。すごいことを言っているなと思いました。以来、弊社では社員全員で毎朝この詩を唱和しています。