観測史上最大「高さ524メートルの津波」から生還した親子

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1958年7月9日、推定マグニチュード7.7~8.3の地震がアラスカ湾の中にあるリツヤ湾で大規模な落石を引き起こした。この湾には当時、3隻の漁船が訪れていた。リツヤ湾は奥行き約11キロメートル、幅約3キロメートルの細長い湾で、2つの岬によって波から守られ、外海とも隔てられていた。

上空から見るとリツヤ湾と氷河がTの字を成しているように見える。これは、湾の奥側を南東から北西へと走るフェアウェザー断層によって形成されている地形だ。

地震はこの断層で発生し、大規模な落石を引き起こした。推定3000万立方メートルの岩石が約914メートルも落下し、津波を発生させた。津波の高さはニューヨークのエンパイアステートビルよりも高い約524メートルと推定されている。

当時8歳の息子と共にリツヤ湾を訪れていた漁師のHoward Ulrichは、最初ガラガラという大きな音が聞こえ、直後に「核爆発」が起きたと表現した。Ulrich によると、高さ15~23メートルの「巨大な水の壁」が湾内を巡り、岩石や樹木を流した。

彼らの漁船は波に乗って樹木の高さまで流されたが、幸運なことに湾内に再び流され、親子は難を逃れた。他に2人が乗っていたボートがあったが、津波に流されて外海へと消えていったという。

リツヤ湾地震は、震源から約250キロメートルも離れた地点で、小規模な地滑りを引き起こすほどの威力があった。アラスカ湾において巨大津波が発生することは珍しくない。1853年以降、少なくとも4~5回は同じような巨大津波が発生している。

アメリカインディアンの一部族であるトリンギット族の間で語り継がれる話からも、数百年前に同様な津波が発生したと推測できる。トリンギット族によると、リツヤ湾の底にある洞窟には巨大なカエルの姿に似た悪霊が棲んでいて、眠りを妨げる侵入者が現れると陸や海を激しく揺さぶるのだという。この悪霊は今でも存在し、再び巨大津波を引き起こす可能性があるという。

編集=上田裕資

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