ショートショート作家 田丸雅智(左)、アキレス代表取締役社長 伊藤守(右)
アンテナと行動ということについて、伊藤は毎年の新人研修でこんな話をするという。 「紙幣の表と裏の図柄を言ってみてくれ、と聞いています。日常的によく目にしているはずのものを、どこまで深く、一方的ではない視点で観察しているかという問いかけです。また、紙幣の裏の図柄を知っているということは、そこに『裏返す』という行動が存在したことを意味しています。何かを発見したり、価値を見出したりするためには、アンテナと行動が大切なのです」
伊藤自身も、その言葉を地でいっている。取材の最後に、こんなエピソードを聞かせてくれた。 「私は美術館巡りが趣味なのですが、あるとき東京で秦の兵馬俑が間近で見られる展覧会がありました。そこでふと兵馬俑の靴裏を見ていたときに、つま先と土踏まずと踵の部分で模様が違っていることに気がつきました。つまりは秦の時代から、滑りにくいように靴裏に工夫が施されていたのです。これはと思い、本場の兵馬俑を見なければと、すぐに中国に飛びました。ただ、本場の施設では遠くからしか見学できず、満足に見ることはできませんでしたが」
そう言って、伊藤は笑う。その観察力と行動力が、まさにアキレスの本質をつくっているのだと実感した。
イノベーションを生み出すためのヒントは、身の周りにこそ潜んでいる。それをいかに感知して、行動に移していけるか──。
あなたの側にも、未来を切り拓くヒントがある。
田丸雅智◎1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。現代ショートショートの旗手として執筆活動に加え、全国各地で創作講座を開催。坊っちゃん文学賞やショートショート大賞において審査員長も務めている。著書に『海色の壜』など多数。