銀行口座の使い道を広げる新星・米フィンテックの狙い目

ザック・ペレット(左)とウィリアム・ホッキー(右)


10年以上前から、資産管理ソフト開発のヨドリーが複数の金融機関の口座情報を一元管理するサービスを牽引してきたが、いまだに多くの企業が顧客口座の本人確認のためにデポジットを振り込ませるという方法に頼っていた。取引明細書のPDFをアップロードさせたり、本人情報を手動で入力させたりする方法を採用している企業もあった。ペレットとホッキーは銀行の顧客がオンラインのユーザー名とパスワードでログインするだけで、同一の機能にアクセス可能なAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を開発しようと考えた。

12年春にペレットをCEO、ホッキーをCTOとしてニューヨークで始動したプレイドは、創業早々思いがけない幸運に恵まれた。送金アプリ「ベンモ」の技術責任者がP2P送金(=個人間の送金決済)のコストを削減する方法を模索していたのだ。送金データを集めて一括で処理するというソリューションを思いついたのだが、この方法だとユーザーの支払い手続きは即時に完了しても、相手への入金は1日遅れになってしまう。ベンモはプレイドのシステムを導入することにより、リアルタイムで支払いに十分な口座残高があるかどうかを確認できるようになった。

こうしてベンモのお墨付きを得たおかげで、ベンモの成功に続こうとするフィンテック企業が続々と顧客になり、プレイドのビジネスは順調に滑り出した。

「一見奇妙に思えるアイデアが、爆発的なヒットアプリになったりする」と、ホッキーは振り返る。

評価額10億ドル超えの「ユニコーン」

その年の秋にエンジニアを増員するためにサンフランシスコに移ったプレイドは、大きな期待を抱いてシリコンバレーのベンチャー投資会社を探し歩いた。創業が初めての2人は専門用語を使わずにプレイドの事業内容を必死で説明し、「すでに顧客がついていること」、「実際に利用できる製品があり、収益もあげていること」をアピールした。「50回も断られた」と言うホッキーに、「それだけだった?」とペレットが口を挟んだ。



プレイドはわずかな予算で何とかやりくりした。ホッキーは友人宅のソファーで寝泊まりし、ペレットは恋人の家へ転がり込んだ。食事は友人たちにおごってもらった。そして、ついに出資してくれる企業が現れた。プレイドは13年7月、スパーク・キャピタルが主導するシードラウンドで290万ドルの資金調達に成功した。それ以来、プレイドは次々と資金調達を実現させている。ホッキーとペレットはフォーブスU.S.の15年版「30アンダー30」にも選出された。スパーク・キャピタルの共同創業者サント・ポリティは「あの若さでしっかりとした経営を行っている」と2人を高く評価する。
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文=アレックス・コンラッド 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=岡本富士子

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