銀行口座の使い道を広げる新星・米フィンテックの狙い目

ザック・ペレット(左)とウィリアム・ホッキー(右)

PICK UP4. PLAID

急速に事業を拡大し、現在の評価額は10億ドルといわれるフィンテック「プレイド」。安全な銀行口座情報への接続を売りにする彼らの金融インフラサービスとは?


サンフランシスコにある金融インフラサービス企業「プレイド」のオフィスには、異色のアメニティ設備がある。ロッククライミング愛好家である同創業者のザック・ペレット(31)とウィリアム・ホッキー(29)は、オフィスの2階にクライミングのトレーニング用マシン、トレッドウォール(垂直なトレッドミル)を設置した。免責同意書が必要な設備に、心配する顧問弁護士をよそに、社員たちは次から次へと降りてくるホールドに手や足をかけながら壁を黙々と登っていく。

プレイドにとって、クライミングは単なる福利厚生の一環ではない。社内で語り継がれる伝説的なエピソードの象徴となっているのだ。今でこそ笑い話になっているが、2人の初めてのロッククライミングで、ペレットはホッキーを5mほど落下させてしまった。

2012年の創業以来、プレイドは多くのフィンテック企業を支えながら、ともに急成長を遂げている。プレイドのソフトウェアはアプリと新規ユーザーの銀行口座を接続する“配管”のような役割を果たす。デポジットも書類手続きもなしで、口座名義人の本人確認を迅速に行うことができる。資産管理や銘柄選定、ビットコイン取引のオンラインサービスがゴールドラッシュの様相を呈しているとしたら、プレイドは砂金採りに使うパンニング皿とシャベルを売っているようなものだ。ペレットとホッキーは、成功間違いなしのビジネスを始めたことになる。

ロボ・アドバイザーのベターメント、仮想通貨取引所大手のコインベース、金融管理サービスのクラリティ・マネーなどの金融スタートアップのアプリの仕組みを検証してみると、軒並みプレイドのシステムが導入されていることがわかる。プレイドの高速テクノロジーはこうしたフィンテック企業の開発者や創業者、投資家たちから大いに歓迎されている。自社アプリと銀行口座との接続ネットワークを独自に構築する必要がなくなり、コストを削減できるからだ。

プレイドを「スタートアップのアプリ開発に必須のテクノロジー」と見ているホッキーは、資金調達を模索しているスタートアップ──相手がたった2人の場合もある──に話をもちかけるという。ペレットもプレイドの使命をこう語っている。「僕らの目標はたんに金融サービスにイノベーションを起こすことではない。金融システムへのアクセスを提供することで、あらゆる分野でイノベーションを可能にする環境をつくりたいのです」

一見奇妙なアイデアが、爆発的ヒットに

ホッキーとプレイドの出会いは2人がコンサルタント会社「ベイン・アンド・カンパニー」のアトランタ支局で若手コンサルタントとして働いているときだった。例のクライミングの出来事をきっかけに両者の絆は深まり、コーディング好きという共通点もあり、時間があるときには2人でさまざまなプロジェクトに取り組むようになった。以前から不透明な決済システムに不満を抱いていたこともあり、資産管理ツールの開発に着手した。なかなか思うように進まなかったが、その過程でアプリと銀行口座を接続させるための技術的なハードルをクリアするシステムを開発することに成功したのだ。
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文=アレックス・コンラッド 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=岡本富士子

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