ビジネス

2019.07.12 16:00

行動経済学Xフィンテック「テクノロジーより人間を理解せよ」


デ・ラ・ロサは2015年に非営利団体(NPO)のコモン・センツ・ラボを立ち上げた。この応用研究機関の目的は、低中所得世帯の財政的な健全性の向上を手助けすることだ。昨年は93の企業と団体が、自分たちのサービスや顧客を“モルモット”として使ってもらうべく、実験参加を申し込み、14の企業・団体が認められた。

デ・ラ・ロサはこれまでのところ、20社のフィンテック企業と研究を行っており、その中にはフォーブスU.S.が選ぶ「世界を変えるフィンテック企業トップ50」に名を連ねるプレイド、チャイム、クレジット・カルマ、イーブンの4社も含まれる。

研究パートナー候補企業が競ってデ・ラ・ロサの関心を引こうとするのは、何も無料で自分たちを研究してもらえる点が魅力的だからというだけではない。洗練されたテクノロジーや人工知能(AI)に力を入れる一方で、人間の基本的な心理を無視したために失敗したスタートアップをデ・ラ・ロサはいくつか見てきた。

金にまつわる心理と行動を理解する

デ・ラ・ロサは9歳のときに母親とともにドミニカ共和国から米国に移住し、寝室2部屋からなる祖母の狭いアパートに腰を落ち着けた。そこには他にも10人の親戚が暮らしていた。母国では心理学者だった母親は、ホテルのメイドとして働いた。 「高学歴の母がホテルの部屋の清掃をしている姿を見るのはつらかったですね。母は私のために、多くを犠牲にしました」と振り返る。「私が金銭に関わる意思決定という問題にはまり始めたのは、そのせいだと思います。1ドルが本当に大きな意味を持つ環境で生活していましたから」。

デ・ラ・ロサはペンシルベニア大学ウォートン校で金融と経営を学んだのち、ゴールドマン・サックスに就職した。家族を助けられるようになりたかったからだ。しかし満足感があまり得られず、14年に著名な行動経済学者のダン・アリエリーと研究するためにグーグルの新たな行動経済学の研究チームに入った。

その翌年には、アリエリーとデ・ラ・ロサは他の2人の同僚とともに、グーグルとは独立したコモン・センツ・ラボを考案し、その実現のためにメットライフ財団から年間数百万ドルという資金援助を引き出した。
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文=クリスティン・ストラー 写真=ティモシー・アーチボルド 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN 新「マネーの法則」を見つけた人々」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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