貧しい移民の家庭出身のウェンディ・デ・ラ・ロサはわずかなお金の大切さを心得ている。名門大学からゴールドマン・サックスを経て、人々とお金のより良い関係づくりを担う。
「コモン・センツ・ラボ」の共同創設者ウェンディ・デ・ラ・ロサ(29)は、数年前にモバイルアプリ「ディジット」と共同で行ったある実験を誇らしげに振り返った。ディジットはユーザーの出費を追跡し、余った現金を当座預金口座から貯蓄口座に移してくれるアプリだ。
その実験では、一方のユーザーグループに、連邦税還付金が当座預金口座に入金される前に「その一部を貯金しては?」というテキストメッセージを送った。もう一つのグループに対しては、還付金が入金された直後に同様のメッセージを送った。すると、最初のグループでメッセージに返信した人は平均で還付金の27%を貯金したのに対し、あとのグループでは平均17%だった。還付金の平均額が2900ドルであることを考えると、これはかなり立派な額の追加貯蓄だ。
「当座預金口座からお金が1ドル出ていくたびに、私たちはその1ドルという経済的な損失以上の損失を感じてしまいます。お金を失うと、“物理的な痛み”を感じるのです」と、デ・ラ・ロサは説明する。つまり、自分の口座に入っているところを目にしていない金のほうが貯金しやすいということである。
身長約155cmでポニーテール姿の彼女は、いまフィンテックで注目のトレンド、行動経済学の権威になりつつある。スタートアップは行動経済学に基づいて次々と貯金や投資、保険、従業員向け福利厚生関連の製品を設計している。
例えば、賃借人や住宅所有者に保険商品を販売する「レモネード」は、不正請求をしにくくするための試みとして、事前に取り決めた同社の取り分を超えた額の利益を慈善団体に寄付している。また、260万口の口座を抱えるネット銀行の「チャイム」は、利用会員の給料が入金されるたびにその10%を直接、貯蓄口座に振り替えるサービスを提供している。なぜ10%なのか。それは、「いくら貯金したいか?」と聞かれると、人は「切りのいい数字で考えるものだから」だと、デ・ラ・ロサは語る。