米金融業界が注目するフィンテックの「データ地図」から見える事実

マーク・ダコスタ、ヒシャム・オウジリ


リアルタイムでマクロ経済を示す

共同創業者のヒシャム・オウジリ(34)とマーク・ダコスタ(34)は、16年前にコロンビア大学で共に哲学を専攻していたときに出会って以来の親友だ。同社は現在、世界中の数千もの情報源からデータを入手し、それぞれの関係を整理した上でひとつのインターフェースとして提供している。「僕らがやっているのは、リアルタイムの世界地図作りなのです」と、オウジリは話す。

オウジリとダコスタがデータ・マイニングの世界に分け入ったきっかけは08年の金融危機である。当時ダコスタは、カリフォルニア大学アーバイン校の大学院でデータを駆使して文化人類学の論文をまとめており、オウジリはモロッコのカサブランカにあるBCME銀行で再生可能エネルギーの開発計画に携わっていた。 

グローバル経済の混乱が続くなか、2人は「何が起こっているのかを説明できないものか?」と模索していた。両者は手を組んで公開データを読み解くことから始めた。米連邦航空局の飛行記録、政府の記録や大学の研究報告書、難解なビジネス文書、積荷書類といったデータは、一見するとわかりにくいが、じつに貴重な情報が埋もれていることがわかった。そうした情報を収集・選別してまとめ上げ分析すれば、ほぼリアルタイムでマクロ経済の状況を示すことができるのではないか─。2人はそう考えた。11年、2人はエニグマを立ち上げた。

エニグマの飛躍的発展が始まったのは14年のことだ。この年、同社はコムキャストやアメリカン・エキスプレス、ニューヨーク・タイムズ紙から計450万ドルを調達。アクセンチュアとニューヨーク・シティ・パートナーシップ基金が共同で立ち上げた「フィンテック・イノベーション・ラボ」に参加した。

ラボで銀行やウォール街の大手証券会社とやり取りするうちに、2人は自社データが金融サービスで途方もない役割を果たせると確信した。エニグマの情報を銀行システムの顧客データと結びつければ、不正の発見や、融資先の事業、個人の特定が容易になるはずだ。「ラボ終了の時点で、具体的な戦術はすでにでき上がっていた」と、ダコスタは当時を振り返る。2人はすぐにソフトウェアを書き上げ、専用のツールを組み込んだコンプライアンス・インターフェースを構築して「ドシエ(調査書類)」と名づけた。 
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文=アントワーヌ・ガラ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=フォーブス ジャパン編集部

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