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成瀬:たしかお昼過ぎだったと思うのですが、川上さんの話を聞いた後、ちょうど自然光が入っているタイミングで金襖を見たら、すごく美しく見えて。「豪華絢爛のためではない」という話にも共感しましたし、僕自身、谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』がすごく好きで。まさに『陰翳礼讃』の世界がここにあるな、と。

川上:春光院は昼間に英語で座禅をやっているので、日中は特別公開できない。であれば、夜の時間を使って、金襖をロウソクの灯りで照らしてみよう、と。その方向性で話が進んでいき、金が持つ本来の美しさを楽しむ企画になりました。

成瀬:当時の人たちは、金襖をロウソクの灯りで見ている。実際に試してみたのですが、ロウソクの灯りを照らすと、金のリフレクター効果で部屋全体がパッと明るくなる。そしてずっと見ていると、金が後ろに埋没していく感じになり、襖の木々や花が目の前に出てくる。この立体感を味わった後、「これは体験としてあるべきだ」と強く思ったんですよね。今まで、金襖を昔の人たちの感覚で見たことがなかったので……。



川上:他のお寺やお城にも金襖はあるのですが、どこも明かりをパッとつけるんですよね。でも昔はそうではない。成瀬さんと同じで、僕も『陰翳礼讃』を読んだことがあるのですが、この本には“金の楽しみ方”が書かれているんです。

すごく面白いのは、『陰翳礼讃』を読んでいる外国人がすごく多い。春光院を訪れた、オレゴン大学の造園科の人たちや建築科の人たちは『陰翳礼讃』の話はするんです。そして彼らはきちんと本を読んでいて、金の見方もわかっている。でも、日本人って金襖の正しい見方を知らないんじゃないか。そう思い、昔の楽しみ方を体験できる企画にしました。

体験をルーツに戻すことが、強みになる

成瀬:この企画、夜にロウソクの灯りで金襖を楽しむのもそうですが、もうひとつのテーマも設けたんです。

川上:そうです。もうひとつのテーマは「光を当てる」です。今まで書けなかった人、言えなかったことを書き出し、手紙する。過去を整理することで、自分にとって一貫性のストーリーをつくることが目的になっています。

人生において自分の存在があると認識できるのは、いろいろな出来事が繋がり、一貫性のストーリーに出来上がったとき。それが出来なくなると、人間は精神的にギクシャクしてしまう。今まで書けなかったこと、言えなかったことを書き出し、その時点に戻る。そうすることで心の整理ができ、一貫性のストーリーを作り直すことができる。

構成=新國翔大、写真=ON THE TRIP提供

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