お店から飛び出して、外や家で料理をしたり、人が集まって食卓を共有するのも貴重な時間となります。
きっとその時に食べたものや感じたことが何かしらの血肉になって、明日の思考や体を作っていく一部になるのではないかと思うのです。
人が生きていく上で原点となるのは食なのですからね。
──今年の4月に行われた銀座ソニーパークでのイベントについて教えてください。
銀座に湧き出る地下水と訪れる人々の声や音楽で植物を育むプログラム「#007 eatrip city creatures」を4月末から5月にかけて開催しました。
地下は暗くて空気が止まっている、と思っていたのですが、もともと海だったから地盤がゆるく地下水が湧いてくるという話を聞いて、洞窟のように気持ちが落ち着く場所にしたいと思いました。
「銀座に湧き出る水、心地よく揺れ動く空気、東京の財産である人。行き交う人の声やピアノの音を栄養素に植物を育てたら、ずっと先までこの街が続いていくんじゃないか──」。
そう信じて、価値観を共有するチームで空間を作り上げました。
映画『おおかみこどもの雨と雪』などの音楽を手がけたピアニストの高木正勝さんもイベントに共感し、プロジェクトに参加してくださったお一人です。
植物に囲まれ、心地よくテキスタイルが揺れる空間にピアノを置くと、意外なことにたくさんの人がピアノに列を作り、クラシックからゲームや映画の曲などを演奏してくれました。
ニューヨークやヨーロッパでミュージシャンが地下通路で演奏しているのをよく見かけます。
目的地に向かって移動している人が時たまハッとさせられ、足を止めて聞き入ったりします。
音と人のエネルギー、良い空気には人を集める「求心力」があるのでしょうね。
──これからの野村さんの目標を教えてください。
私も好きなことに深く潜る、浸る人生に惹かれます。
なので、これからも「You are what you eat」を体現し、料理をもとに疑問を投げかけたり、共感したり満たされたり、そんな場を今つくっていく先が、未来の世の中の少しでも役にたてたら嬉しいなと思います。
夢中で生きたいですね。
野村友里(のむら・ゆり)◎料理人。「eatrip」主宰。長年おもてなし教室を開いていた母の影響で料理の道へ。日本の四季折々を表す料理やしつらえ、客人をもてなす心をベースに食を通じて様々な角度から人や場所、ものを繋げ、広げる活動を行う。