ビジネス

2019.07.07

「吉本興業はNPO法人になった方がいい」会長が語った胸中

調印式でスピーチする大﨑会長

「井土さん、ちょっとタイに行って来てほしいんだけど」。上司からそんなメッセージが届いたのは、渡航する数日前だった。

私は二つ返事で「行きます」と答えた。吉本興業がノーベル平和賞を受賞したバングラデシュの経済学者、ムハマド・ユヌスとソーシャルビジネスの事業をしている。ユヌスは、無担保少額融資のマイクロファイナンスで知られるグラミン銀行の創設者だ。貧困層の女性たちに自立を促すマイクロファイナンスは世界的に注目を集め、「貧困ゼロ」を提唱している。そのユヌスと吉本興業が調印式を行うという。

そのとき、まさかメディアが連日吉本興業を取り上げることになるとは思ってもみなかった。雨上がり決死隊の宮迫博之やロンドンブーツ1号2号の田村亮をはじめ、吉本興業の芸人が相次いで反社会的勢力から金銭を受け取っていたことが発覚した。いわゆる「闇営業」問題だ。この件に対し同社が「決意表明」を発表し、コンプライアンスの徹底を約束したのは渡航する当日だった。成田空港のテレビには、同じく無期限謹慎処分を受けたスリムクラブの顔が映し出されていた。

調印式自体、または取材は中止されるのではないかと思ったが特にその連絡もこないまま、私はタイ・バンコクで行われたソーシャルビジネスデーのイベントに参加した。イベント内で調印式が行われる予定だった。

ムハマド・ユヌスの哲学を啓発するユヌスセンターが主催する国際的イベントは、60ヵ国から1500人近くの人が集まった。ユヌスと親交の深い俳優のマット・デイモンや同じくノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイなどの著名人がビデオメッセージを寄せた。社会の課題をビジネスの力でどう解決したらいいのか、と知恵やビジネスチャンスを求めて大勢の人が集まった。

その日誕生日を迎えたユヌスは、スピーチで「お金を稼げば稼ぐほど、幸せになるという考え方は間違っている」と語り、2024年のパリオリンピックに向けてスポーツを通したソーシャルビジネスをパリ市とともに検討していることを発表した。会場にはパリ市長も駆けつけていた。


幸福について語るムハマド・ユヌス

明るい雰囲気の中、日本で連日取り上げられている問題の渦中の大﨑洋の姿が会場の前方にあった。107年という歴史ある吉本のトップの座に就き、より自由な事業展開ができるように非上場化へもたらした。そんな大﨑がソーシャルビジネスに力を入れ、タイに来ている。ソーシャルと反社への闇営業。きついブラックジョークのような間の悪さで、お笑い最大手の会長は何を思うのか。現地でその胸中を聞いた。
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写真=吉本興業

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