モノが心に寄り添う、より良い社会 杭州発AI+IoTパイオニアの挑戦

「Tuya Smart」の創業者兼COOのAlex Yang氏(左)


特徴的な技術の1つが、人間のエモーショナルニーズを察知し、その心に寄り添い、パーソナルサポーターとしてモノが自動対応してくれる技術だ。

具体的には、AIの顔認証や声認証技術を強化し、顔色や声色でその時々の感情や欲求を察知し学習しながら、対応パターンを臨機応変に選択し、「かゆい所に手が届く」自動対応をしてくれるというものだ。

例えば、疲れている時は癒しの照明を照らし、暖かい空調を整え、心地良い温度のお湯を風呂に入れてくれる。パートナーへの愛情を表現したい時には、ムードのある照明に素敵な音楽をかけてくれ、リラックス効果のあるお茶を出してくれる。

その技術がReTech(リアルエステート×テック)で、不動産に応用され、自宅、集合住宅、ホテル、病院、セキュリティー、シェアリングなどとも連鎖しながら、社会全体がスマートソサイティ化していくという。

なかでもセキュリティーについては、自宅にいるペットを外部からいつでも確認でき、また不審を察知した際は自宅側から知らせてくれるというような双方向タイプが人気だ。また、気の利いた機能例としては、冷蔵庫が各食材の賞味期限を知らせてくれたり、冷蔵庫内の食材でレシピも提案くれたりもするようになる。



ローカライゼーションを重視

Tuya Smartは世界展開を進めるなかで、各国の法律や規制に対応し、それぞれの生活習慣に寄り添うローカライゼーションをとくに重視している。これは、ユーザーの日々の生活に密着しているIoTならではの、最もチャレンジングな要素ではないだろうか。

例えば、Yangさんは米国に留学し、カリフォルニアに住んでいた。そこでは庭の草花に定期的に水をやらなければ罰金が生じ、逆に水をやり過ぎても罰金を取られた。その時、このストレスを解決してくれる「スマート水まき家電」を強く求めていたそうだ。

そういった現地ならではのニーズ、ストレス、社会的課題の解決につなげ、より良い社会づくりに貢献したいというのが、彼らが実現をめざしているビジョンだ。

では、日本の社会で考えた場合は、どのようなことが期待できるだろうか。まず浮かんだのは、高齢化社会、過疎化、核家族の不便さや不安の解消、そして孤独感やプレッシャーを和らげたいということだ。地方の1人暮らしのお年寄りも快適で安心して生活ができる、1人で留守番をする子供の宿題を一緒にサポートしてくれる、そして3世帯同居の場合も世代別個人別の自動対応が可能になる。

ただし、Tuya Smartの技術のみでは、それらは実現できない。日本でのIoT認知率はまだ8%に過ぎないのだが、日本側がどこまで受け入れて、共存していくのか、受け入れるほうの態勢が重要ではないだろうか。

最後に、Yangさんがこう打ち明けてくれた。

「些細なことかもしれないけど、ぐっすり眠れる機能が僕のお気に入りなんだ。スリーピングモニターで、快適な眠りと目覚めの良い朝を演出してくれる。徐々にライトを弱めたり、朝はカーテンを少しずつ開けて、好みの音楽をかけてくれたりする。僕らは、世界に追いつかなければならないというプレッシャーをいつも背負ってきた。そのせいか眠りが浅くて、僕自身も優しいサポートを求めているんだ」

IT界の超エリートである彼が、ふと漏らしてくれた本音に、少し安心感を覚えた。

連載:深センのリアルなキャリア事情
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文=藤井 薫

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