地域経済とソーシャルイノベーション


行動をおこさなければ変化は起きない



周囲の農家と共に連携して、生産量を増やし、市場での流通量を増やすことが一般的な農家の考えが多い中、地方での独自のブランドづくりや販路開拓は、周囲から反逆児扱いされるリスクがありました。

哲也さんとは何度も会話を重ね、最後はライチを町の産業にし、持続可能な生産をしていくために、自らがリスクを背負って挑戦していく覚悟を決めてくれました。行動を起こさなければ、自分も他のライチ農家も生産を縮小せざるをえない。この危機感が、1粒1000円のライチという新しい市場を作ったのです。

この森さんの思いと覚悟に応える気持ちで、私たちもライチの販路開拓やPRに取り組みました。私たちが着目したのは、世界中から観光客が集まる銀座の人気店です。ライチを採用していただけるまで、店舗からのフィードバックを受けて何度も粘り強く改善しました。トップクラスの店舗で採用していただければ、その他の地域でもきっと受け入れてもらえると考えたからです。

その結果、人気店のチーフパティシエの方に深く共感していただくことができ、期間限定メニューの食材に採用されました。ライチはそこから火がつき、たくさんの取引先が生まれ、テレビの全国放送などでも放映されるようになりました。

ここに至るまでの全ての過程は、森さんの覚悟が生んだイノベーションといえるのではないでしょうか。森さんが途中で断念していたら、1粒1000円のライチは誕生しなかったからです。

これまでは、地方の農産物というとブランド力のある特産品以外は地方が東京に頭を下げて販路を求めるのが一般的だったように思います。ライチはそこから、東京の百貨店や著名なレストランから求められるものへと進化することができました。

森さんと話をしているといつも「ライチを町の特産品にしたい。自分がやらなければ誰がやるんだ」という言葉がでてきます。地域を良くしたいという使命感です。哲也さんは自分が生産するライチ農園に国内外から視察者が訪問するようになるまで、広がることは予想できなかったそうです。そして一方で未知なる領域に一歩踏み出すことで、新しい世界が広がることを学んだといいます。いつの時代も、一人の人間の強い使命感と覚悟が世界を変え、物事を動かしてきました。この1粒1000円ライチの誕生の過程には、リーダーシップの本質を見ることができます。

文=齋藤潤一 写真=Waki Hamatsu

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