日本人が知らないエストニアのいま

2019年4月、エストニア政府は、同国の電子政府ソリューションをオープンソース化する方針を発表した。今後は、サイバーセキュリティに関するものを除く全ての電子政府プログラムをオープンにしていく方針だ。

従来から「Government as a Service」を標語に、行政サービスを一つのスタートアップのような形で発展させているエストニア。そんな同国はなぜ、自国の電子政府ソリューションをオープンソース化したのだろうか。リサーチを進めていくと、その裏側に「透明性」「デジタル官民連携」そして「相互運用性」の3つのキーワードが浮かび上がってきた。

人間は信じないが、テクノロジーは信じる 

そもそも人間とは、「よく分からないもの」に不安感を覚えるものだ。例えば、エストニアに行ったことがない人に「いまからタリンの中央市場の肉屋さんに行って、ソーセージを買ってきてください」と言ったら、ほとんどの人が戸惑うだろう。これはエストニアへの行き方や、治安、言語、中央市場の雰囲気などがよく分からないから、つまり全体像を掴めていないことで、不安が生ずるためである。

このように、人間が「よく分からないもの」に不安を覚えるのは自然なことであり、電子政府化の初期段階においては、その不安を払拭することが必要となる。電子政府に関する議論で、「透明性」がキーワードとしてしばしば語られているのはそのためだ。

エストニア人と話をしていると、「人間は信用しないが、技術は信用する」とよく耳にする。これまで数々の国に支配されてきたエストニアは、人間が運営する政府である以上いつか不正が起こってしまうこと、つまり対人間の信用コストが非常に高いことを理解しているのだ。

そのためエストニアでは、そもそも人間を信用しなくても良い仕組み、つまり「不正ができない電子政府基盤」の構築に挑戦した。その中で、システムそのものに「透明性」を持たせるのは自然の流れであり、今回の「オープンソース化」もその手段の一つにすぎないのだろう。もちろん、国民の全員がソースコードを読めるわけではないが、それでも監視機能が働いていることへの安心感は根強いというわけだ。

デジタル官民連携の促進、相互運用性の向上へ

また、電子政府のシステムをオープンにすることで、「デジタル官民連携」の促進も期待できる。これが2つ目のキーワードだ。

国家の電子政府プログラムがオープンになることで、より民間企業への門戸が開かれる形となる。つまり、民間企業がより密接な形で電子政府システムと連携したアプリケーション開発を行えるようになり、政府の手が届かないサービスを「民間ならでは」のユニークな視点から開発・提供することが可能になるのだ。

慢性的にヒト・モノ・カネが不足しているエストニアでは、元来から政府がコアとなる行政サービスとAPIを提供し、その上で民間企業が独創性を働かせながら様々なサービスを展開している。

現在、電子政府のデータ連携基盤(X-Road)と連携したサービスの数は3000を超え、その中に多くのスタートアップも含まれていることからも、エストニアでいかにデジタル上の官民連携が進んでいるかが分かる。今回のオープンソース化によって、そのアイデアが世界中から集積することが期待されることに注目したい。


コードレポジトリの実際の画面

文=齋藤アレックス剛太

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