次世代の農園主たちが新しい好循環を生む
EI Pilonという農園では、コーヒー豆の精製過程で発生する果肉の発酵エキスを使って、お酒やシロップ、ジュースを作ったり、粉状にして甘味料にするなど、コーヒー豆以外のプロダクトを生み出そうという動きもあります。今まで捨てられていた副産物から商品を開発して販売するという、新しいビジネスの創出に意欲的です。
コーヒー豆の副産物で作られたシロップ。コーヒーの実がベースなのでいわゆるコーヒーの味はしない。
「このような農園主の多くは2代目や3代目で、海外経験を積んでいて英語も堪能。スペシャルティコーヒーの人気が高まる中、高品質の豆を作れば高く売れるということを理解しているので、新しい精製製法の開発や効率的な生産システムの構築にも積極的です。豆を精製する大型の機械はもちろん、焙煎機やエスプレッソマシーンまで完備し、エンドユーザーが喜ぶ味についても熟知している農園もあるほど。国によっては、農園の人たちが先進国で飲まれているコーヒーを飲んだことがないケースも多いので、かなり先進的だと感じました」(坂尾氏)
スペシャルティコーヒーを作るようになってから、化学肥料ではなく自然由来の肥料を使う農園も増えたといいます。化学肥料を使った方が収穫量は増えますが、土へのダメージが大きいため、長期的にみると自然由来のものの方がメリットがあるのです。各農園が、腐葉土にサトウキビなどを混ぜて発酵させた自家製の肥料を作っていました。
EI Pilon農場の若き後継ぎたち。柔軟な発想で新しい精製方法などを研究・開発している。
彼らの親世代は、大量生産が基本で、質より量を重視していましたが、昨今のトレンドが量より質に代わり、生産方法や堆肥、ビジネスも大きく変化してきています。その流れの中で、SDGs時代に必要とされる環境への配慮やサステナビリティ、サーキュラーエコノミーなどが自然な形で取り入れられ、未来へ向けた良い循環が機能し始めていることを実感します。
メリットはコーヒー農園に留まらない
コーヒーの品質を上げることにより、また別の面でも自然環境への影響を軽減できるといいます。それは、畜産による環境破壊です。
コーヒーの品質が上がり、味が豊かになれば、今までラテを頼んでいたような人がブラックコーヒーを飲むようになります。すると牛乳の使用量が減り、畜産が減り、結果的に環境負荷を下げることができるというのです。というのも、国連食料農業機関(FAO)の報告によれば、畜産牛は、石油を大量に使用する車や飛行機などより環境負荷が大きいのです。
また、美味しいコーヒーであれば砂糖を入れずとも楽しめるので、過剰な糖分摂取を防ぐことができ、健康の観点でもメリットがあります。コーヒーを飲むということについて、ここまで深く思考していることに驚かされます。