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2019.07.04

中国EV市場を襲う「2020年」問題、補助金カットで業界再編へ

NIOの旗艦モデルSUV車両「ES8」(Carrie Fereday / shutterstock.com)

中国版テスラとして注目を集めたEV(電気自動車)メーカー「NIO」は、2018年9月にニューヨーク証券取引所に上場した。しかし、NIOの株価は今年に入り58%下落し、現在44歳の創業者のWilliam Liはビリオネアの地位を失った。

6月27日、NIOは同社の旗艦モデルのSUV車両「ES8」にバッテリーの出火トラブルがあるとして、4803台をリコールすると発表した。リコール台数は販売済みの車両の約3分の1に相当する。

中国政府はEV向けの補助金の削減を決めており、アナリストらはNIOが今後、さらなる困難に直面すると述べている。投資家の間では、EV分野への投資を控える動きも起きている。

「今後2年間で、新興EVメーカーの多くが経営破綻する可能性がある」と上海のコンサルティング企業L.E.Kのアナリストは話す。「資金調達が出来ず、生産体制を確立できない小規模な企業は滅びる」

NIOほどの大規模な企業であれば倒産する可能性は低いが、納車台数からは苦戦ぶりが見える。今年第1四半期にNIOは3989台のES8を納車したが、前四半期の7980台から大きく減少している。売上は前四半期から54.6%減の2億2900万ドルとなり、損失は3億9500万ドル(約425億円)に膨らんだ。

中国政府はEV分野の「リアルなイノベーション」を促進する方針を打ち出し、2020年に補助金を打ち切ろうとしている。NIOのES8の価格は約50万元(約780万円)で、従来は1台あたり6万7500元の補助金を交付されていた。しかし、今年は補助金が1台約1万元レベルまで減額される。

一方で投資家らは、より規模の小さなEVメーカーが大きな危機に直面すると考えている。Pitchbookのデータでは、今年1月から4月までの中国の民間EV企業の調達資金の総額は7億8300万ドルで、前年同期の59億7000万ドルから急減した。

テスラも中国で現地生産開始へ

「補助金が無くなれば、多くのスタートアップは経営危機に直面する。新興EVメーカーで生き残るのは、2、3社になるだろう」と上海の投資企業Gobi Partnersのアナリストは話した。

この状況をサバイブできる可能性のある1社が、アリババが支援する「Xpeng Motors(小鵬汽車)」だ。同社は前回の資金調達時に企業価値40億ドルで、5億8700万ドルを調達したが、同社プレジデントのBrian Guは「前回に匹敵する規模の資金調達に向けた交渉が進んでいる」と述べた。

「EV領域に資金を注ぐ投資家らは、以前よりも慎重になり、この分野のトップ企業のみに投資を行おうとしている」とGuはフォーブスの取材に応えた。

それでもアナリストらは、EV分野では新興企業が大手のBYDやGeelyらを脅かすことはないと見ている。「この2社はコスト管理能力があり、補助金の削減の中でも競争力を維持できる」と上海のコンサルティング企業AutoForesightのアナリストは述べた。

さらに、テスラがモデル3の現地生産及び販売を中国で始動させれば、競争はさらに激化する見通しだ。

「規模が大きく、補助金の削減にも耐えられる企業は今後も事業を拡大する。一方で、新興のEVメーカーが生き残るのは難しい」とL.E.Kのアナリストは話した。

編集=上田裕資

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