7月4日。六本木〈Mercedes me〉に登場したそのクルマは、会場の視線をまといながら、静かに、ゆっくりと現れた。その様は威厳というほかない。メルセデスは、待望のピュアEV第一号となる 『EQC』を、日本で販売開始することをこの日発表した。
メルセデスは、過去にもW124型ミディアムクラスや3代目SLなど、自動車の歴史に名を残すエポックなモデルを創出してきた。内燃機関の転換期といわれる現在においても、EV(電気自動車)の開発を忘れてはいない。
欧州では、自動車のモーターを活用してパワーユニットである内燃機関を電動化する動きに伴い、各メーカーから新時代の礎となり得るEVモデルが登場し、市場でしのぎを削りはじめている。一方、これまでの日本市場におけるEVの普及ぶりをみていると、販売面で必ずしも成功したと言えるケースは多くない。インフラの問題もあるが、それ以上に航続距離や実用性といった部分で、ユーザーの信頼に足るモデルがなかったのだ。
このような状況のなか、EQCは欧州市場から約半年遅れで日本導入となった。発表会の会場では、まずメルセデス・ベンツ日本の上野社長が、実際にEQCを運転し壇上へと登場。初めて目の当たりにする実車の動きは、自然体でしなやか、なにより当然のことだが、これ以上ないくらい静かで、スタイリングに関しては、新時代のプレミアムSUVらしく、全体的に美しく自然な曲線で構成されている。世界市場において重要なモデルであるにも関わらず、まったく力みや無駄がないフォルム。ただひたすらスマートで、強いインパクトを放つというよりも、人々の生活の中に自然に溶け込む感じがある。
〈EQCの特徴1〉EQCのデザインテーマは「クリーン&シームレス」。フロントまわりはブラックパネルやLEDヘッドライトを採用した先進的なイメージでまとめられている。まるでクーペのように流麗なルーフラインを持ち、全体的にはまとまり感のあるシンプルなスタイリングになっている。
インテリアは、モダンかつ質感の高いデザインで、高級感のある素材が採用されるなど、メルセデスらしい落ち着いた雰囲気が感じられる。新型Aクラスでも採用されたAIインフォメントシステム『MBUX』も搭載されており、「ハイ、メルセデス!」と呼びかけることで起動し、音声のみでさまざまな操作ができるほか、今回のEQCのために新設定されたコマンドが搭載されるなど、機能面でアップデートされ、利便性を高めている。
デキがいいという言葉はこのためにある。「メルセデスがEVになった」という本物感従来のメルセデスの“文法”からすると、この「EQC」という名称は耳慣れないものだが、ベースモデルを知ればスムーズにモデル名を覚えられるかもしれない。スタイリングからも感じられるが、EQCはミドルSUVの「GLC」をベースにしている。現在EVを手がける多くのメーカーが、新規にオリジナルボディを制作していることに対して、メルセデスは異なるアプローチで対抗してきたのだ。
上野社長に続いて登壇したEQCの開発責任者、ミヒャエル・ケルツ氏は、その点に関してこう語った。
ミヒャエル・ケルツ|ダイムラーAG パワートレイン開発責任者。「自動車の製造計画というのは柔軟性が重要になります。特にメルセデス初のEVとなるEQCでは、どれだけの台数が売れるのかという予想はつきにくいものでした。そこで、さまざまな状況に応じて迅速に対応することができるよう、GLCをベースとしたわけです。現在もブレーメンの工場ではGLCクーペとともに共通のラインで製造されています」
では、AクラスやBクラスではなく、GLCが選ばれたのはなぜか。これは上野社長もイベントで語っている。
「このセグメントが世界の市場において最も大きな成長を遂げているからです。たとえば、GLCは想像していた以上に走りが素晴らしいと評価されています。さらに、お客様が求めている利便性という部分でもメリットがあります。ミディアムSUVというセグメントを用意することで、より多くのお客様に対応することができるのです。もちろん、Aクラスや Bクラスなど、他のカテゴリーにおいても今後の展開は考慮しています」
今最も輝いているカテゴリーで、すでに世界中のユーザーから信頼されているモデル。人々がEVに求めているのは、見たことのないクルマではなく、生活環境に即して使えるクルマなのだ。この先見の明には舌を巻くしかない。同様に既存車ベースのEVを販売するメーカーはすでにあるが、クルマ界のオーソリティでもあるメルセデス・ベンツがこうしたことは、今後のEV市場に一石を投じることになるかもしれない。
ちなみにメルセデスでは、このEQCが主力になっていくEVの「EQ」、プラグインハイブリッドの「EQ Power」、水素燃料電池車の「F-CELL」という3つのEQパワートレインを用意し、今後の電動モビリティを包括していくという。さらに、2020年中にはピュアEVとして10モデル以上をリリースし、2030年にはEQブランドの販売比率をメルセデス全体の50%以上に引きあげようと考えている。
やはり中身もスペシャルだったEQCもちろんライバルメーカーがEVの販売比率を高めていくことも予想できる。では、すでにゴングが鳴っているEVの覇権争いのなかで、メルセデスとしては、EQブランドをどう差別化し、メルセデスらしさをアピールしていくのだろうか。
「私たちが考えるのは、まず静粛性、そして乗り心地の良さや快適さ、さらにデザイン的な部分だと思っています。その点、EQCは、外観デザインはもちろん、快適さに関しても、お客様が他のメルセデス車と変わらないという感覚を持つことができるようになっています」
確証を持ったケルツ氏の言葉が、腹落ちする。静粛性や乗り心地は実際に運転しないとなんとも言えないが、スペックシートを見ると、やはりEQCはスペシャルなのだ。
EQC Edition 1886|メルセデス誕生の1886年を意味する限定55台の特別車。先行販売される。EQC 400 4MATIC|EQCの記念すべきシリーズ。予約注文はWEBで行われる。SUVとして外せない要件である4WDシステムに関しては、前後計2つのモーターを搭載し、低燃費目的で走行する際はフロントモーターのみで効率的に走り、パワフルさを要求される場面ではリアモーターも稼働して4WDの走破性能を発揮してくれる。
最高出力は300kW、最大トルクは765Nm。内燃エンジンになれた現代人にとってEVの走行感覚は不思議なもので、運転したことがある人はわかると思うが、アクセルペダルを踏みこんだ瞬間からハイパワーを発揮し、加速の伸びも終わりが見えないような感覚がある。この数値を見れば、たとえ重量のあるEV+SUVであろうとも、不満のない快適なドライビング感覚を味わえることは予想できるだろう。
クルマとしての快適さを味わうためには、航続距離も重要である。その点、欧州参考値のWLTCモードで400kmというスペックは十分信頼に足りる。充電方式に関しても、日本で主流となっている急速充電のCHAdeMO規格に対応しており、普通充電も合わせると利用できる公共充電器数は全国で2万1000箇所(2019年6月現在)。メルセデス・ベンツ正規販売店の全店に充電設備が設置され、さらに2019年中にPHEVやEQCを購入すれば、メルセデス専用の充電用ウォールユニットが無償で提供されるという。
〈EQCの特徴2〉優れた航続距離と燃費を実現するため、EQCでは前後アクスルにそれぞれ1つずつモーターが搭載されている。低中負荷領域では、フロントモーターのみ稼働し、走行状況に応じて前後トルクを可変調整しながら、リアモーターも同時に稼働することで4WDらしい高いドライビング特性を発揮する。
最高速度は180km/h、0-100km/h加速も5.1秒と、SUVらしからぬ高性能を持ち、ハンドリング、快適性、安全性についても、メルセデス基準に基づいて開発されている。特に走行性能に関しては、49:51という理想的な前後重量配分が、低重心な車体設計と相まって、エモーショナルな走りを味わえる(※数字は欧州参考値)
〈7月18日よりWeb商談予約開始!〉⇒商談予約サイトはこちらEQCはそのオーダーも特徴的だ。予約は全てウェブサイト上で行われ、実車を見たい場合は六本木または大阪の〈Mercedes me〉に行く事になる。
上写真にある「EQC Edition 1886」から先行して予約を受け付けている。「EQC 400 4MATIC」も今後順次、申し込み開始となる。
現代の自動車、特にプレミアムモデルにはさまざまな要件が必要となっている。優れた運転フィーリングはもちろん、内装の質感、室内空間の快適性、高い安全性能、購入後の保証やサポートなど、これらの実現にはメーカーの技術力だけでなく、そのブランドが培ってきた歴史や販売店の体制、メガサプライヤーとの関係など、あらゆるものが総動員されることになる。そういう意味では、メルセデスが、メルセデス基準で作り上げたEVには、今後さらに注目が集まることだろう。
EVの市場がコンペティティブなのは、自動車としてはこれまでのどんな進化をも超える「パワーユニットの変換」という高レベルの進化段階に直面しているためだ。当然、EV市場の熾烈な競争のなかで、高いレベルの競争力が必要となることが予想される。しかし、130年以上の長い自動車の歴史のなかで、多くのカテゴリーにおいてトップに登りつめてきたメルセデスには、その狭き門を上り詰めてきた実力と経験がある。EQCを街中で多くみることができる未来は、そう遠くないはずだ。
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