「COLD WAR あの歌、2つの心」(パヴェウ・パヴリコフスキ監督)は、全編モノクロで撮影されている。今年のアカデミー賞では、奇しくも同じモノクロ作品であるアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」と監督賞を争った(結果は「ROMA/ローマ」が受賞)。
「1950年代のポーランドは、色に溢れた国ではなかった。戦争で国は破壊され、街は廃墟と化し、人々は灰色の服を着ていた。鮮やかな色を見せようとしたら嘘になる」
モノクロで撮影した理由をポーランド出身のパヴリコフスキ監督は、このように語るが、とにかく率直に、かつ誠実に自分の国を表現しようとした結果、この映像に行き着いたとのだという。
音楽と映像で感動させる作品
「COLD WAR あの歌、2つの心」では、15年間に及ぶ、8つの時代、4つの場所が描かれていくが、その合間を埋めていく描写はほとんどない。ヴィクトルとズーラ、2人の恋愛の新局面が次々と提示されていく。実はこの演出がダイナミックな展開をつくりあげており、感動の余韻を連鎖させていく。
「作品では強烈で重要な瞬間だけを見せた。観客自身の想像力と人生経験で、その間を埋めてもらいたかった。不要な要素を取り除き、観客が操られたと感じることなく、物語を体験してもらい、理解してもらいたかった」(パヴリコフスキ監督)
時代と場所は次々と変わっていくが、最後には強烈な物語体験が待っている。並みの恋愛映画ではない、容赦なく心に突き刺さってくる作品だ。
また、音楽もこの映画のキーポイントとなっている。冒頭、ヴィクトルが地方を歩いて収集するポーランドの民族音楽と、同じく彼がピアニストとして演奏する勃興期のパリのジャズ。モノクロの映像と同じく、見事なコントラストをこの作品ではみせている。
また、ヴィクトルは、ズーラを歌手としてデビューさせるため、彼女の歌う愛の民謡「2つの心」を、フランス語でレコーディングするのだが、そのことをきっかけに、ふたりはまた距離を置くことになる。物語の重要な転機として音楽が効果的に使われている。
ズーラは、ポーランドの民謡を別の言葉で歌うことでアイデンティティが引き裂かれていく。ことさら悲しい響きを持ったズーラが歌う場面は、この作品のなかでも心動かされるシーンのひとつかもしれない。
さて、恋愛映画は結末がとても気になるとは思うが、ネタバレは申し訳ないので、自分としては、それが満足のいくものであったということだけ記しておきたい。そして、不思議なのは、モノクロの作品であったのに、なぜか、ラストのシーンだけは、観賞後、色つきで思い出されるのだ。
連載 : シネマ未来鏡
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