グッチが中目黒のカセットテープ店を日本初の「グッチ プレイス」に選んだ理由

写真=帆足宗洋


その「グッチ プレイス」には、「未来につなぐべき文化」や「後世に残すべき伝統」を感じる場所が選ばれているという。

そもそもはイギリス・ダービシャー州の、16世紀に建てられたデヴォンシャー公爵家の館「チャッツワース・ハウス」に、ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレが出会ったことがきっかけだった。メイドや執事の人たちが着ている制服に歴史的な価値があり、公爵たちが着ていた衣装も大切に保管されていたため、それらの衣装を集めた展覧会にグッチが協賛したのだ。公爵の孫がたまたまプロのモデルで、広告に出てもらったりもしたという。


イギリス、ダービーシャー州にあるチャッツワース・ハウス©Chatsworth House Trust

「グッチ プレイス」には他に、ローマにあるヨーロッパ初の公共図書館「アンジェリカ図書館(The Biblioteca Angelica)」や、ロンドンにある歴史的重要建造物で出版社アスリーヌのフラッグシップショップ「メゾン・アスリーヌ(Maison Assouline)」、ロサンゼルスの美術館「ロサンゼルス・カウンティ・ミュージアム・オブ・アート(LACMA)」、かつて郵便局の建物がレストランに改装された香港の「ビーボ(Bibo)」などが選ばれている。

こういった歴史的な場所を完璧に維持することは困難だ。グッチでは、これらが美しく蘇るきっかけになればと、歴史的に価値のある場所を選んでいる。グッチが支援をすることで、その風景や文化を後世に残す一助になりたいという思いがあるという。アレッサンドロ・ミケーレ自身、ルネッサンス以前の古い絵画に興味があったり、歴史的な文化の価値に憧憬があるらしい。

また、グッチが『グッチ プレイス』というコンセプトを立ち上げたのは、支援のほかに、「その価値を同時代の人びとに知ってもらう」ためという。

「waltz」を「グッチ プレイス」に選んだのも、すでにカセットテープレコーダーが生産されない時代にも関わらず、カセットでしか再現できない音域がある、そのことを今の若い人たちに知ってもらい、カセットテープの文化を後世につなげる一助になれば、という目的があるという。



カセットテープレコーダーというツールが物語のシーンの一つに用いられた広告ビジュアル。courtesy of Gucci

また、ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレ氏は、東京で広告ビジュアル撮影することになった際、カセットテープレコーダーというツールを物語のシーンの一つに用いたという。そんなところも、waltzが選ばれた理由の一つなのだろう。ミケーレ氏は、日本の漫画を小さいころから読んでいたり、「日本」への興味はもともとあるともいわれる。


courtesy of Gucci


courtesy of Gucci

「未来につなぐべき文化」としてグッチに選ばれた、中目黒の小さなカセットテープ専門店。グッチは東京を、「伝統とハイパーモダンが動的に集まる大胆にして個性溢れる都市」と描写しているが、まさに音楽の体系的な歴史の中では、カセットテープは「伝統」であり、角田氏の出身ブランドであるアマゾンというEコマースビジネスは、いわば「ハイパーモダン」だ。

ミケーレ氏もひょっとして、waltzのそんな二極性と「誰もやっていないことしかしない」意思にも惹かれ、共感したのだとしたら──。

文=石井節子

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