──AIに関してのバックグランドがなく、40歳を超えてから一から会社を起ち上げたと伺いましたが、これまでどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか?
フェリス女学院大学という地元の女子大を卒業した後、90年代はじめに住友商事に事務職として就職しました。当時の商社は「女性は結婚してやめるべき」という時代。女性社員の平均年齢は27歳で、入社式では4年目のボーナスをもらって寿退社をするのが「女の花道」だと言われました。元々時限爆弾のような壁があるんだ、と思いながら仕事をしつつも、仕事がとても楽しく辞めたくなかったので、外資系証券会社を経て、日本興業銀行(当時)の証券子会社入りました。
途中から総合職になって楽しく仕事をしていたのですが、2000年代はじめに第一勧業銀行と富士銀行との合併があり、出身行の派閥争いに嫌気が指していました。それでも「営業成績を上げれば認めてもらえるだろう」と思っていたのですが、9.11テロが起こった時、アメリカ出張中の同僚の安否を尋ねた人事部に「興銀出身の人は調べていない」と言われて、かすかな光明も失い、心が折れました。
その当時クライアントから誘いを受けて、運用会社の創業メンバーの一人となりました。その後ベンチャーの取締役を経て、2010年にバオバブを創業。情報通信研究機構(NICT)にも在籍しながら、当初はEコマースの海外展開用の機械翻訳を専門でやっていましたが、次第にクライアントのニーズも広がり、画像認識、音声認識に向けた学習データ作成もやるようになりました。
──来て欲しい未来は?
どうすれば戦争や差別といったことはなくなるのだろう。どうすれば人間の相互理解が進むのだろう、という課題は常に頭の中にあります。例えば、バオバブでは自動翻訳のデータセットも作っていますが、最終的にAIで言語の壁がなくなった世界は完全な相互理解が進むのでしょうか? 私はそうは思いません。海外の方とのバリアがどこまで崩れるかは、結局は人それぞれの意識にあると思っています。
一方で、偏見は「学習データの不足」によって生まれているのではないかと考えています。異なる人種や女性、LGBTなどの異性、障がい者の方々に違和や奇異を感じてしまうのは単純にそれらの人たちを知らない、慣れていないだけで、学習データが世の中に増えると差別意識もなくなるかもしれません。
女性リーダーのロールモデルも多くはないなかで、東大やハーバードMBAを卒業したわけでもない、AIに関するバックグラウンドもない、両親も自身も起業経験もない私が、40歳を超えて会社を起業してなんとか経営している、ということを多くの方に知っていただくことで、バリキャリではない、多くの普通の女性たちの力になれればと思っています。
さがら・みおり◎バオバブ創業者。証券会社、ベンチャー企業取締役などを経て2010年にバオバブ創業。11~14年独立行政法人情報通信研究機構勤務、成田空港、DoCoMo等への研究成果の実用展開、音声認識技術を採用した障聴者と健聴者とのコミュニケーション支援アプリ「こえとら」の研究開発などに携わる。13年 AAMT(Asia-Pacific Association for Machine Translation ) 長尾賞受賞。