ビジネス

2019.07.03

「銀行」をやめる 堅実なイメージとは異なるりそな社長の姿勢

りそなホールディングス取締役兼代表執行役社長 東和浩


「しかし、『できないと思うのは、いままでの延長線上で考えているから。構造そのものを変えて発想しろ』と叱られましてね。たしかに細谷のいうとおり。自分がいかに銀行業界の常識にとらわれていたのかを痛感しました」

実際、りそなは窓口の仕組みを根底から変えた。銀行には各種手続きを行うハイカウンターと、資産運用などの相談業務を行うローカウンターという2種類の窓口があるが、思い切ってハイカウンターを廃止。利用客が自分で手続きできる端末「クイックナビ」を置き、体感待ち時間をゼロにした。

自己否定の精神は、13年に社長に就任した東も強く意識している。「組織は、放っておくと自己肯定的になりがち」という危機感があるからだ。りそなショックの経験や、銀行業界を取り巻く厳しい現在の経営環境を前に、現状に甘んじてはいけないと自戒する。

事あるごとに発信しているのは、「銀行をやめる」というメッセージ。銀行の存在自体に疑問を投げかけるという意味では、細谷よりさらに過激だ。

では、りそなはどう生まれ変わろうとしているのか。ヒントになるのが、現在進めているオムニチャネル戦略だ。18年にはチームラボと組んでスマートフォンのアプリを開発した。

「お客様が求めているのは金融サービスであって、銀行という組織ではありません。送金や投資信託の購入ならスマホアプリでいい。一方、相続や住宅ローンのような分野は、対面でご相談いただける体制が必要です。WEBとリアルをうまく組み合わせて、お客様との接点を増やしていきます」

公的資金は15年に完済した。注入時に返済スキームをつくった人間として、感慨深いものがあるのではないか。そう尋ねたら、意外な答えが返ってきた。 「13年に社長に就任した時点で返済の目途は立っていました。だから社員にも『完済後の絵を描こう』とメッセージを送りました。15年に完済したときも、新しい業務のことで頭がいっぱい。感慨に浸る余裕なんてありませんでした」

経営にゴールはなく、現在は常に通過点に過ぎない。東の目は、そう語っていた。


ひがし・かずひろ◎1982年埼玉銀行入行。2003年りそなホールディングス執行役財務部長として実質国有化後の再建に当たる。13年りそなホールディングス取締役兼代表執行役社長(現任)。18年りそな銀行取締役会長兼代表取締役社長兼執行役員(現任)

村上 敬 = 文 苅部太郎 = 写真

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