経済・社会

2019.07.06 08:00

顔も名前も出さず、リーダー不在 アップデートされた香港デモ 

21日夜8時。官庁街である金鐘(アドミラルティ)の路上が占拠されている様子。(筆者撮影)

国外に犯罪者を引き渡すという条例の改正をめぐって香港では大規模デモ、暴動が発生して政情不安が加速している。2014年の雨傘運動以来、目立った動きがなかった香港市民にいま何が起こっているのか? それを自分の目で確かめるべく、筆者は現地に向かった。


6月21日、香港に着くなり急行した香港島の金鐘。日本の国会にあたる香港立法会前のメインストリートはこの日の夕方からバリケードで囲われ、デモ隊と思われる若者たちが道路に座り込んで占拠していた。5年前の雨傘運動の現場で体験した光景と同じものが目の前にある。このところの香港は、雨傘運動を敗北の記憶として、このまま中国に飲み込まれていくのかに思えた。しかし、再び市民は立ち上がったのだ。そこに佇み、当時の熱気を思い出し、しばし感傷的な気分に浸ってしまった。

だがすぐに、5年前とは雰囲気が少しちがうことに気づかされた。参加者はみな黒いTシャツで、全身黒のコーディネートも珍しくない。一様にスマホを凝視しているが、その表情はどこか固い。5年前の雨傘運動の占拠の現場では、黄色がイメージカラーで、みな思い思いのファッションをして笑顔があった。スマホを持つ参加者も多かったが、みんなテントの中の時間潰しの動画視聴だったり、友人とおしゃべりだったりと、どこかのんびりとしていた。


デモの女性参加者たち。顔は断わられるが、背中からならばと言われる。(筆者撮影)

警察関係の施設がある方向から拡声器の声がした。何か集会が始まったらしい。声の場所に向かった。12日、警察は催涙弾やゴム弾などの武器を使ってデモ隊の鎮圧を行い、参加者たちの恨みを買っている。マイクを持った発言者の言葉に、参加者たちは同意して鬨の声をあげていた。「黒警、黒警』とのコールもある。集会は熱を帯びているようだ。

その光景にカメラを向け、二度ほどシャッターを切った時、マスクで口元を隠した黒づくめのデモ参加者たちに囲まれた。早口の広東語でひとしきりどなられ、「ソーリー、アイム、ジャパニーズ」と言う私に、「ノー・フォト! ノー・フォト!」と、画像を削除するように迫られた。私は自分のことを、ジャーナリストだと説明し、雨傘運動の時から取材をしていることを伝えた。すると、日本語を勉強していると思われる学生が私に説明してくれた。

「日本からきてくれてありがとうございます。でも、参加者の顔はぜったいにダメです。お願いします」

日本ならば、警察に言われようが絶対に突っぱねる私だが、彼らの切羽詰まったような表情に同意せざるを得ず画像を削除し、彼らにも確認してもらった。
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文=小川善照

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