6月21日、香港に着くなり急行した香港島の金鐘。日本の国会にあたる香港立法会前のメインストリートはこの日の夕方からバリケードで囲われ、デモ隊と思われる若者たちが道路に座り込んで占拠していた。5年前の雨傘運動の現場で体験した光景と同じものが目の前にある。このところの香港は、雨傘運動を敗北の記憶として、このまま中国に飲み込まれていくのかに思えた。しかし、再び市民は立ち上がったのだ。そこに佇み、当時の熱気を思い出し、しばし感傷的な気分に浸ってしまった。
だがすぐに、5年前とは雰囲気が少しちがうことに気づかされた。参加者はみな黒いTシャツで、全身黒のコーディネートも珍しくない。一様にスマホを凝視しているが、その表情はどこか固い。5年前の雨傘運動の占拠の現場では、黄色がイメージカラーで、みな思い思いのファッションをして笑顔があった。スマホを持つ参加者も多かったが、みんなテントの中の時間潰しの動画視聴だったり、友人とおしゃべりだったりと、どこかのんびりとしていた。
デモの女性参加者たち。顔は断わられるが、背中からならばと言われる。(筆者撮影)
警察関係の施設がある方向から拡声器の声がした。何か集会が始まったらしい。声の場所に向かった。12日、警察は催涙弾やゴム弾などの武器を使ってデモ隊の鎮圧を行い、参加者たちの恨みを買っている。マイクを持った発言者の言葉に、参加者たちは同意して鬨の声をあげていた。「黒警、黒警』とのコールもある。集会は熱を帯びているようだ。
その光景にカメラを向け、二度ほどシャッターを切った時、マスクで口元を隠した黒づくめのデモ参加者たちに囲まれた。早口の広東語でひとしきりどなられ、「ソーリー、アイム、ジャパニーズ」と言う私に、「ノー・フォト! ノー・フォト!」と、画像を削除するように迫られた。私は自分のことを、ジャーナリストだと説明し、雨傘運動の時から取材をしていることを伝えた。すると、日本語を勉強していると思われる学生が私に説明してくれた。
「日本からきてくれてありがとうございます。でも、参加者の顔はぜったいにダメです。お願いします」
日本ならば、警察に言われようが絶対に突っぱねる私だが、彼らの切羽詰まったような表情に同意せざるを得ず画像を削除し、彼らにも確認してもらった。