ビジネス

2019.07.10 16:30

海外進出は「名刺代わり」になる事例で足がかりを。国内でもがいて得た教訓

業務中の取締役外木


意思決定の早いシンガポール政府

シンガポールでは、日本貿易振興機構(JETRO)の担当者や、先に進出していた日本のスタートアップ駐在員や起業家、投資家たちに片っ端から会い、政府関係者や企業、大学の担当者を紹介してもらいました。誰かに会うたびに「ディープラーニングの技術を駆使したイノベーションで世界を変えようとしてきた。失敗も実績も積んできた。産業構造の変革をサポートし、シンガポール、ひいてはASEANの経済発展に貢献したい」と青臭くて大きな話を何度も何度も繰り返しました。
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政府や大学とは、進出ほどない時期から機会に恵まれました。

我が社への投資家の一つで、世界有数のAI企業の一つ「NVIDIA」のシンガポール担当者が外木と親しく、その後同国政府のAI専門機関に転職していました。それが縁で、様々な協業を進めました。同国のAI戦略を知る機会になるとともに、シンガポール周辺の国々への展開の計画作りにも役立ちました。

政府の意思決定の早さも印象的だったそうです。責任者が会議に出て提案への可否をその場で示してくれる。肩書や企業の大小で判断せず、協業のメリットを合理的に判断していました。海外担当役員の外木自身が回っていたのも功を奏しました。その場で判断を求められるようなことがあっても、外木が意思決定権者なので、その場で決めることができたからです。
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大学との連携も、共同研究開発や、優秀な研究者の採用のために不可欠でした。外木はシンガポール国立大学(NUS)に設立されたばかりの、ビジネスとデータサイエンスを学ぶ修士プログラムに注目。ディープラーニングの実用面まで踏み込んだ講義はないだろうから連携できる余地はあると踏み、同プログラムの日本人学生を通じて教授陣につないでもらいました。

そこから2017年9月、ABEJAの創業者の1人と外木が同プログラムのディープラーニングの講義を担当しました。その後、同大学生にインターンに入ってもらうなど、様々な広がりが生まれました。


NUSで講義する外木(左端)=2017年9月

企業に関しては、大きな商談につながるまで、日系大手企業の社長を中心に、現地事業でのディープラーニング導入を提案しに何度も通いました。ですが、大きな商談にはなかなかつながりませんでした。

何度この技術の必要性を説いても、当時は何に使えばいいのか分からない、という反応が大半でした。加えて日系企業の現地法人は管理機能が多く、現地のビジネスに関する実質的な決定権限が日本の本社にあるためになかなか話が進まないという事情も少なからずありました。

グローバル企業の現地法人やシンガポール国内企業の社長にも会いました。グローバル企業は反応はあるものの、最先端の技術の概念を詳しく説明できるレベルの英語力がなく、導入にはハードルがありました。 シンガポール国内の企業は、以前からの信頼関係を重視する企業も多くすぐに商談につながりません。

外木はモヤモヤする日を送ることになりました。「成果は出るはずと確信していたけれど、あの時期は本当につらかった。手掛かりがなかなか得られず、空振りすらできなかった。頭のいい人たちは、ここで失敗を想定して撤退したかもしれない。でも、自分が成果を出すには、ここであえて物分り悪く粘ろうと思った」

厳しい状況がしばらく続きましたが、2018年後半には日系企業や現地企業との協業事例が生まれ始めます。どう行き着いたのかは、次回以降お伝えしたいと思います。
次ページ > 「物分かり悪く粘る」大切さ

文=夏目萌

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