ビジネス

2019.07.10

海外進出は「名刺代わり」になる事例で足がかりを。国内でもがいて得た教訓

業務中の取締役外木


「物分かり悪く粘る」大切さ

外木がシンガポールに赴任した当時、私は海外事業の傍ら、国内企業の経営者向けの有料セミナー事業も兼務していました。数カ月に一度、ディープラーニングの基礎知識や事業への活用方法を有料で学んでもらう内容でした。

部署にまたがる仕事を並行して進めるのは、ベンチャーではよくあります。ただ当時、私は並行できなくなっていました。

当時、AIへの関心が今ほど高くなかったこともあり、顧客を集めるには、各方面に声をかけたり、事前に訪問して説明したりするのも必要でした。「今日はあの会社に連絡しよう」と思う一方で、現地社員の採用、外木のスケジュール調整、各国の市場競合のリサーチ、営業資料の作成、毎月の給与支払い...シンガポール関連の仕事をこなす間、2017年6月に予定していたセミナーの日はどんどん近づいてきました。

登壇ゲストも押さえていましたが、営業ができなかったために、20~30人を見込んでいた顧客は、本番の10日前でも5人だけでした。

この人数では、セミナー自体が赤字になります。ゲストも参加者も、いい印象は持たないでしょう。「このまま無理に開いても会社にもゲストにも迷惑がかかる」と判断し、日本に帰国していた外木に開催中止を相談しました。

「中止した方がいいと思っているんですが……」。おそるおそる言い出した私に、外木は驚きあきれた様子でした。「できる方法は、まだたくさんあるはずだよね?」

その場で外木は、Facebookやメール・電話を通じて、30人ほどの経営者に有料セミナーへの参加を打診し始めました。方々に「経営者の方々にディープラーニングの必要性を説明したいんです」と知り合いを紹介してもらい、数日かかって当初目標の20人が参加していただく目処が立ちました。

期日が迫ったイベントへの参加、しかも有料での参加を打診するのは、常に前倒しで仕事を進めていく外木のスタイルではなかったと思います。それをさせたことは、今でも心がうずきます。

私の仕事を振り返るたびに、外木が触れるのはこの時の話です。「失敗を恐れて『無理』という思考で向き合うのをやめ、どうしたらこの高い山に登れるのか、くらいの考えで向き合ってほしかった」と。

今考えれば、「失敗」から逃げていただけでした。スキル不足でも、足りないなりに「できることは何か」と考えて行動に移せたはずです。その結果失敗しても最善を尽くしていたなら糧になったはずです。

この時の経験は、外木のいう「あえて物分かり悪く粘る」ことの大事さにつながる経験として忘れられないものになっています。

[ AIベンチャーの海外進出 Tips]

1. 初期は「名刺代わり」になる事例づくりを優先する
新しいマーケットを作る際は、自分たちの象徴となる、評価してくれるパートナーを見つけることに注力する

2. 即断即決ができる人が場に臨む
意思決定の早い現地の政府/企業に対峙できる覚悟と体制が不可欠

3. 一度決めたら物分かり悪く粘る
決して諦めずできる方法を考え、バットを振り続けることが勝機になる

連載:AIベンチャー海外進出の「泥臭い」リアル
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文=夏目萌

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