24歳でブラジル移民に。『魔女の宅急便』作者の想像力の源

角野栄子


24歳のとき、迷うことなくブラジルへ

──過去の経験が、アイデアに繋がっていくのでしょうか?

経験は大切だと思いますが、自分の身になるだろうと思ってやったことよりも、心から楽しんでやったことの方が後に繋がるのではないかしら。私は24歳のときに自主移民としてブラジルへ行ったのですが、それはもう、ワクワクする冒険でした。1953年に日本人移民の受け入れが再開されてしばらくたったタイミングとはいえ、客観的に見ると勇気のいる選択だったのかもしれませんね。

そのときは船に乗り込み、喜望峰周りでシンガポールやアフリカのケープタウンに寄りながら、2カ月かけてブラジルを目指しました。船のデッキからは水平線が見えて、「あの向こうには何があるんだろう」って、想像しながらワクワクしたものです。見えない世界というのは、想像するだけで心が動きます。


24歳、ブラジルへ向かう途中に停泊したケープタウンにて

ブラジルに着いてからは働きながら暮らして、言葉が分からなかったけど楽しい思い出ばかりです。2年経ってある程度お金が貯まったタイミングで、ヨーロッパを9000キロ回ってからカナダとニューヨークに寄って、日本へ帰国しました。帰ってきたときは一銭もお金がなかったですね。

最近の人は本当に慎重だから、こんな潔いお金の使い方はしないでしょう。みんな先が見えないことを怖がるけど、先が見えないからこそおもしろいし、感動があると思います。デビュー作の『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』を楽しみながら書けたのも、ブラジルに楽しい思い出があったからですね。

──どうしたら、角野さんのように仕事や日々の生活を楽しむことができるのでしょうか?

イマジネーションと好奇心を持つことが大切だと思います。

イマジネーションというのは人を思いやり、理解するために必要です。特に外国人とコミュニケーションをとるときは、その人が何を話しているのか想像して理解しなくてはいけない。もちろん、家族や友だちと会話をするときだって同じ。相手の気持ちを理解しないと会話は成り立たないし、面白い会話もできない。文化や他者とのぶつかり合いには、イマジネーションがなければならないと思います。

そして、「この先に行ったら何があるんだろう」という好奇心を持つこと。例えば散歩に出かけたときも、好奇心があればおいしいお店を見つけることができるし、素敵なお買い物をすることもできるし、面白い人と知り合うこともできる。そうやって出合ったものって、すぐに何かアイデアに結びつくというわけではありません。でも、時間が経っていろんなことと混ざり合うことで、自分にとって意味のあるものになってくるはずです。

だから私は、イマジネーション豊かで、好奇心旺盛な子どもたちがいっぱいいる世の中になればいいなと思いながら、これからも物語を書いていくのです。


講演会での一枚


かどの・えいこ◎1935年、東京生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒業。児童文学作家。1970年、『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』(ポプラ社)でデビュー。『魔女の宅急便』(福音館書店)、『小さなおばけシリーズ』(ポプラ社)をはじめ、手掛けた数多くの作品がロングセラーとなっている。2018年、国際アンデルセン賞・作家賞を受賞。

構成=松尾友喜 イラストレーション=Willa Gebbie

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