現地で見た「ルクセンブルク」のスタートアップ支援

Matej Kastelic / shutterstock.com


ブートキャンプ2日目と3日目(5月22日、23日)に開催されたICTスプリングというイノベーションイベントには、72カ国から5000名以上が参加し、グローバル企業やスタートアップのブースが会場に並んでいた。特筆したいのは、ルクセンブルクの経済相が世界9カ国、各3社までのスタートアップ企業に無料でブースを提供した点だ。

基調講演には、ルクセンブルクのグザヴィエ・ベッテル総理大臣が登壇し、ユーモアあふれる挨拶で聴衆の心を掴んだあと、イノベーションの重要性や選挙の必要性、いまだにウクライナでは紛争が続いている事実などについて語り、最後に「believe in you, fight for your values」とスピーチを締めくくった。


(Silicon Valley Ventures)

ベッテル総理大臣は、両親はユダヤ系とフランス系の移民で、4つの宗教のなかで育ち、同性婚を果たした人物。イノベーション創出を考え、スタートアップ支援を精力的に行っている。

また、多くのヨーロッパのスピーカーのなかにあって、日本からも2名が基調講演を行った。LINEの砂金(いさご)信一郎氏は「人々とお金の距離を縮める」というメッセージを、Empathの山崎はずむ氏は「昨年のピッチ大会の優勝から海外展開と倫理問題」について伝えた。

さらに、「Pitch your startup」というピッチでは、日系スタートアップ勢の快進撃が続き、サイバーセキュリティ部門では、早稲田大学発のAIスタートアップのEAGLYSが見事に優勝を果たした。

House of StartupsのCEOにインタビュー

アクセラレーターブートキャンプ修了の翌日、このプログラムをつくったHouse of StartupsのCEO、Karin Schintgen氏に1時間半インタビューをした。

元弁護士で、アメリカで教育を受けたSchintgen氏は、シティバンクや大手企業で働いた後に、2008年のリーマンショックの影響を受け、「銀行の本来の役割」について考えるようになり、「corporate responsibilityとはeconomic responsibilityである」ということに気づいたそうだ。

そして、2010年にルクセンブルクでトップのスタートアップ・インキュベーターである「Lux Future Lab」を説得し、ビル1つを丸々使ってスタートアップが集まれる場所づくりを行った。

その後、商工会議所のバックアップも得て、2017年に5階建のHouse of Startupsをオープンさせ、国内外のスタートアップがスケールするために必要な弁護士や会計士などの専門家や、フランス出身で自身もスタートアップ企業を創業し、これまでに多くのスタートアップを成功に導いたビジネス開発者などを常駐させ、サポート体制を整えている。


(Silicon Valley Ventures)

現在、House of Startupsには多くのグローバル企業もスタートアップと一緒に入居しており、インタビュー後、施設内の見学をしながら主要人物に面会。夜には商工会議所で開催された日本とルクセンブルクの貿易のシンポジウムにも出席した。

今回、4日間のアクセラレーターブートキャンプに参加して、1人当たりのGDPが世界一を誇るルクセンブルクの、スタートアップ支援の熱意がひしひしと感じた。

連載:イノベーション・エコシステムの内側
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文=森若 幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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