その一方で迷いもあった。自分が立ち上げたデザインファーム「Basecamp」も両立できる形でやっていきたい。ただ、すでにいくつかのスタートアップの支援も手がけており、ひとりでBasecampの代表、delyのCXOを兼務するのは難しい。
であれば、会社ごとdelyグループに入った方がいいのか。そんな考えが頭に浮かび始め、3月〜4月頃から子会社化の方向性も両社の間で検討し始めた。そのタイミングで坪田にとっては“またとない情報”が耳に入ってきた。広野がFOLIOを退職する、という情報だ。もともと、2人はお互いは主宰するイベントで登壇し合う間柄である。
「デザインファームは属人性の高い仕事が多く、単に人がいればいいわけではない。Basecampを一緒に運営できる適任者はなかなかいないと思っていたら、広野君がFOLIOを辞めるというニュースを知った。これは声をかけるしかない。2人だったら面白いことできそうだと思い、すぐに声をかけて会いに行きました」(坪田)
声をかけられた広野は当初、FOLIOを退職した後に起業することを考えていたが、坪田と話をする中で考えが変わっていったという。
「自分でスタートアップする予定だったのですが、もう少し自分のやりたいことの解像度が高くなってからの方がいいかな、と。今の状態でビジネスを立ち上げても視野が狭いものしかできない。であれば、1年くらいは余裕を持ち、デザイン領域で坪田さんのノウハウを吸収する。
そうしてスタートアップに貢献しつつ、色んな会社を手伝って視野を広げた上で、改めて世界の産業に貢献するには何をするのが良いいのか考えてみたい。そう思い、坪田さんの提案を引き受けることにしました」(広野)
Basecampの仕事は広野に任せながら、坪田のリソースはdelyグループに投下する。「そっちの方が世の中を幸せにできるんじゃないか」と坪田は言い、delyの子会社になる決断を下したという。